1分おにぎり/こにぎり/パリパリ海苔にぎり

五感をひらくレシピ #12

FOOD
2021.02.26

「五感をひらくレシピ」を、自炊料理家の山口祐加さんに教えてもらいます。第12回のテーマは、「おにぎり」。お弁当生活の手始めにも、在宅ワークのお昼ごはんにも、自分へのごちそうにも。おにぎりを楽しむヒントが詰まっています。


「日本のソウルフードはなんですか?」と聞かれたら、みそ汁も捨てがたいのだけれど、私は「おにぎり」と答えると思う。幼い頃公園で食べた、おばあちゃんが作ってくれた俵型のおにぎり。高校生の頃、お母さんが持たせてくれた少し大きい明太子おにぎり。会社員時代、夜までお腹が持たなくて自分で作って持っていたおやつのおにぎり。記憶をさっと振り返るだけでも、おにぎりの思い出はたくさんある。

きっと誰しも忘れられないおにぎりがあって、やさしい思い出として心の中にあるのではないだろうか。それくらい、あのお米のかたまりには不思議な力がある。

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数年前、ケータリングの仕事で鶏ごぼうごはんを炊いた。ごはんが炊けると、その香りに引き寄せられてお釜の前にずらっと行列ができた。

私が「そのままお皿に盛りますか?おにぎりにしますか?」と聞くと、みなさん必ず「おにぎりがいいです!」と言った。炊き込みごはんが成型されているだけで味は全く変わらないのに、なぜかおにぎりの方を選ぶのだ。その気持ちすごくわかる、と思いながら私はおにぎりを100個くらい握った。

繰り返しになるが、お茶碗に盛り付けたごはんと、握ったごはんでは、物質としてはなにも変わらない。けれど、ころんとした三角形のかたちはかわいらしいし、食べていて具を見つけると、その具が何か知っていてもうれしくなってしまう。冷めたごはんはどこかさみしさを感じてしまう時があるけれど、おにぎりなら冷めていても全然いい。むしろ、冷めている方がおいしく感じるくらいだ。

人が握ってくれたおにぎりは特別うれしいけれど、自分のために握ってみるのもいい。ここからは、私が日常的に作っている3つのおにぎりをご紹介したい。

忙しい時の「1分おにぎり」

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お弁当を持っていきたいけれど、おかずを作る時間がない時、私は1分で塩おにぎりを作る。塩おにぎりはそれだけで食べられるし、おかずを買うにしてもいい相棒になってくれる。コンビニやスーパーでおかずや汁物を買って、ささっと昼食を済ませるのにぴったりなのだ。

春からの新生活、「今年こそはお弁当にチャレンジしよう!」と思っても、張り切りすぎると途中でエンストしてしまう(私がそうだった)。最初はおにぎり1個を持っていき、慣れてきたらおかずやみそ汁をタッパーに入れて少しずつ持っていくのがおすすめだ。

リモートワークでも、朝にごはんを炊いてお昼の分をおにぎりにしておくと心強い。仕事に集中していて「お昼は食べなくていいや」となってしまう人も、おにぎり一つ握っておけば、片手で食べられて腹持ちもいい。おにぎりは本当に良くできた食べ物だと思う。

この1分おにぎり、梅干しや鮭など具を入れて冷凍保存しておくと、お茶漬けもすぐできる。顆粒の鶏ガラスープをお湯で溶いて注げば、中華風だし茶漬けになるのだ。遅く帰ってきた日もこれで十分満足できる。

小さくてかわいい「こにぎり」

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冷凍したごはんを解凍したはいいものの、お腹いっぱいになってしまって、あと3口分だけ食べきれなかった、という経験はないだろうか。再冷凍するには気が引けるし、冷蔵庫に入れると米粒が固くなってしまう。うーん、どうしたものかと悩んだ時に思いついたのが、3口分で作る小さなおにぎり「こにぎり」だ。

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ただ握っただけなのだが、“残り物感“がなくなるし、冷めてもおいしい。小腹が空いた時のおやつや、ごはん作り始める前のエネルギー補給として食べるのにもぴったり。

時間がある時の「パリパリ海苔にぎり」

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のんびりとした朝、たまに自分のためにおにぎりを握る。おにぎり専門のケータリングをしている友人が言っていた「ひよこを包むくらいやさしく握るんだよ」という助言を頭に、ふんわりと空気を残して包む。

こういうふわふわのおにぎりは、すぐ食べたほうがいい。だから余裕がある日のご馳走なのだ。

こだわりたいのは、海苔を寝かせて中央におにぎりを置き、食べるときに海苔をくっつけて、パリパリのうちに食べること。パリッと噛むと海苔の香りが立ち、口の中で米粒がほどけて最高においしい。


忙しいときも、時間の余裕があるときも、おにぎりは出番を待っている。ふと思い出したら、ぜひおにぎりを頼ってみてほしい。どんなときもおにぎりを一口食べれば頬がゆるみ、食べ終わる頃には心も身体もどっしりとした安心感に包まれるのだ。

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