無限大のりまき

アイスム × note「私のイチオシレシピ」 #5

FOOD
2022.11.09

アイスムとnoteによる「#私のイチオシレシピ」コンテスト第二弾を開催し、今回も四名の受賞者を選ばせていただきました。おいしそうな料理のレシピはもちろん、誰のために、どんな日常の風景で作るのかなど、一人一人の料理に込められた物語をぜひ楽しんでくださいね。

今回は「文章を書く」ことをライフワークとし、noteで定期的にエッセイや小説の創作活動をされている、あん子さんのエッセイ「無限大のりまき」です。韓国のりまきのキンパから着想した、簡単で、手間なく、でも食べるときにワクワクする、のりまきレシピをご紹介。幼い頃のお母さんとの、のりまきの思い出にもほっこりします。


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韓国の人のvlogを観るのが好きだ。

単にわたしが韓国オタクだから、というのもある。でもそれ以上に、その方たちの日常に登場するごはんが、なんともおいしそうだからなのだ。チゲ、チヂミ、冷麺、サムギョプサル、ビビンバ、トッポッキ……それからキンパ。

特にキンパは、なんにもない普通の日や献立に迷った時に作るようだ。
中身はそのときどきで変わる。冷蔵庫の中身を自由に組み合わせて、気楽に作る様子がなんだか印象的だった。

巻きすも使わない。(もちろん使う人もいるけれど。)のりにごはんと具をのせて、えいやっと巻いて、ぎゅうぎゅう押したらできあがり。はみ出ても気にしない。包丁で切り分けて、端っこは味見で食べちゃう。

例えば、こんな感じだ。

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ごはんは平らに、具は手前2センチぐらいのところ、これだけ守れば大丈夫!

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ラップで十分事足りちゃうから、いまだに巻きすを持っていない私。このくらいの気楽さがよいのです。

巻き寿司というと、さあ今日はやるぞ!と気合いを入れて作るもんだというイメージを持っていたわたしの目から、うろこがぽろっと落ちた。いいなあ、なんかゆるくて、楽しそうだなあ。

さっそく、作ってみることにした。このためにわざわざスーパーで板のりを買ってきて、(思ったより高い!)まずは定番の具だくさんキンパ。

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彼へのおもたせにした。そうじゃなかったらこんなにがんばれない。

じゃん!うん、なかなか上手くできた気がする。厚焼き卵を作って、ほうれん草はナムルにして、にんじんは炒めて、お肉は甘辛く味付けした。おまけにたくあん。

ボリュームも、具とごはんとのバランスも良くて、とってもおいしい。とってもおいしいけれど、具を一つ一つ準備しないといけないので、正直手間はかかる。人のためだったからがんばったけど、自分一人が食べるならもっと適当でいいなあ。毎回これを作るのは、ちょっと大変そう…。

それから、わたしの「キンパの旅」は始まった。キンパは、正確にはキムパプと書くのだが、キムは海苔、パプはごはんのことである。要するに、のりまきである。のりで巻いてあれば、なんでもキンパ=のりまき、なのである。

大判の板のりは、一袋に7枚くらいは入っているので、使い切るにはしばらくのりまきを食べ続けないといけない。もっと簡単に、もっと自由に。韓国Vloggerの食卓を参考に、いろいろ試してみることにした。

最初にやってみたのは、エビフライのりまき。職場に持っていくお弁当用にしようと、前日に揚げておいた冷凍のエビフライが二本あったのだ。

朝、寝ぼけ眼で冷凍ごはんをチンして、のりにオンして、レタスをわさっとのっけて、ソースをかけたエビフライをそっと寝かせる。あとは巻くだけ。切り分けてお弁当箱に入れたら終わり。あれ?思っていたよりずっと簡単。

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レタスはコンビニの、洗わなくていいやつ。ちょっとヘルシーっぽく見えてうれしい。

お昼になって、エビフライのりまきにマヨネーズをつけて、(これがまた合うのだ)ご満悦で食べていたら、隣の席のスタッフがわたしのお弁当箱をのぞきこんできた。

「あん子さん、のりまきですか?朝そんなの作ってきたの?すごい!」
「え、そうですか?冷凍エビフライ巻いただけなんですけど…えへへ。」

味をしめた。簡単なのに、ほめられる。手がかかってる風に見えるけど、実際わたしの体感としては、普段のごはんとおかずを詰めたお弁当よりもラクに感じた。しかも、おいしくて楽しい。ラクで楽しいなんて最高だ。

そういうわけで、次なるのりまきへ。あともう一声、ラクしたいなー、というわたしの目に飛び込んできたのは、缶詰のいわしだった。味は味噌と醤油があるけれど、わたしが選んだのは醤油味。一緒に巻くのはレタスではなく、ちょっと和風を意識して、大葉にしてみる。

切り分けた上からごまを振りかけたら、それっぽくなってテンションが上がった。今度は食べる時、たくあんを付け合わせにしてみた。これが、最高においしかった!

いわしに味がついているので、食べるときに何もつけなくていいし、大葉の爽やかな香りがほどよいアクセントになっている。

たくあんの食感もベストマッチ。朝5分で作ったとは思えない満足度だ。

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パッと見、手の込んだお弁当。ほんとは、所要時間5分。うふふ。

まだまだ、のりがある。こんなのもやった。

ソーセージと卵とたくあん。冷蔵庫がすっからかんで、苦しまぎれに生み出したのりまきだ。

なんとなく味が物足りなくて、試しにケチャップをつけてみた。たくあんにケチャップと考えると、ちょっと不思議な組み合わせだけど、ソーセージと卵には合うから意外と悪くはない。人には出せない、自分のためだから作れるスナック感覚ののりまきになった。

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見た目の悪さは気にしない。のりまきは、手軽でゆかいなファストフード!

だんだんわかってきた。のりで巻いてはいけない具材というのは、そんなにない。工作するみたいに自由に、気まぐれに、試してみたっていいのだ。

ごはんにごま油や塩を混ぜるもよし、酢飯にするもよし、めんどくさければ味付けしないのもあり。中身だってたくさん入れないといけない決まりはない。冷蔵庫の余り物をくるくると巻いてみよう。

のりまきは無限大だ。組み合わせの数だけ、自分だけの味の世界が広がる。

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薄焼き卵、サンチュ、豚キムチ。おいしくないわけがない組み合わせ。

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コチュマヨツナ、きゅうり。いびつなのはご愛嬌です。

ふと思い出したのだけど、小さい頃、母がよくのりまきを作っていた時期があった。わたしは食が細くて、なかなか自分からごはんを食べない子だったので、母はなんとかしてわたしにごはんを食べさせようと試行錯誤してくれていたのだ。

そうして生まれたのが、お母さん特製の細巻き。ごはんをのりで巻くと、不思議と一本ぺろりと食べられた。中身はいつも同じで、細く切ったきゅうり、ツナ、そしてマヨネーズ。ツナマヨではなく、ツナと絞ったマヨネーズなのが母流。

それを一本一本、竹の巻きすで丁寧に巻いていた。人差し指で上から押さえて四角くぎゅっぎゅっとするんだよ、と教わった。時間が経つと、四角いのりまきがキレイなまんまるに落ち着くのが不思議だった。

痩せっぽちで小食なわたしのための、ささやかなひと手間。

ごはんをのりで巻く、ということには小さな温もりや愛がこめられている。それからちょっとしたワクワクも。同じごはんつぶなのに、巻いてあるだけでほんの少しうれしい気持ちになったり、食欲がわいたりする。ごはんと一緒に、ごきげんなアイデアもくるくる巻いているからかもしれない。

のりまきの旅が、こんなに自在に広がっていくなんて思わなかった。もっと楽しく、もっと気軽に、これからも旅を続けてみるつもりだ。
あなたものりまきの旅に出てみませんか?

むずかしく考えなくても大丈夫、誰もケチなんてつけないから。のりまきの世界にルールはない。毎日の暮らしに素朴な顔でなじんでくれる、個性豊かなのりまきは、みんなのソウルフードになるかもしれない。

わたしも、明日はのりまきかなあ。使いかけの板のり、まだあったはず。冷蔵庫の中には何があったっけ?なんて、頭の片隅で考えるようなありきたりな日常が、ちょっぴり愛おしかったりする。

あん子さんのnoteはこちら


【note × アイスム】投稿募集企画 第4回を近日開催!
創作をする人、それを応援する人のためのメディアプラットフォーム noteにて、これまで「#私のイチオシレシピ」「#うちのカレー」など投稿募集企画を実施してきました。近日中に、第4回も開催予定です!続報をお待ちください。

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編集・構成:佐々木沙枝

アイスム座談会