「もしも」の食卓を、日常の中に
地震や台風など、自然災害と隣り合わせで暮らす日本。非常時に本当に必要とされるのは、体力を支える「そのまま食べられるもの」だったそうです。被災地での支援活動を続ける食育防災アドバイザーの中村詩織さんに、日常の中でできる食の備えについて書いていただきました。
日本は災害大国です。
地震だけでなく、台風や豪雨、豪雪など、自然災害と隣り合わせで暮らしています。
だからこそ、「備え」は特別なことではなく、日常の延長にあるものでなければ続かないと思っています。
東日本大震災から今年で15年が経ちますが、当時、テレビに映る光景に胸を締めつけられた記憶を、今でもはっきり覚えている方も多いのではないでしょうか。災害は遠い場所の出来事ではなく、いつ自分の身に起きてもおかしくない現実なのだと、多くの人が実感した瞬間だったと思います。
そして令和6年元日に石川県能登地方を襲った能登半島地震。
私は発災から5日目、東京から支援物資を積み、珠洲市に入りました。震源地でもあったその地域では、建物の九割近くが倒壊または損壊し、多くの方が無事だった建物や自家用車の中で避難生活を送っていました。
珠洲市は車が生活の足となる地域です。真冬の厳しい寒さのなか、暖房用の灯油は不足し、水道も止まり、ガソリンもない。スーパーやコンビニも被災し、食料を手に入れる手段はほとんどありませんでした。畑があっても、水が使えず野菜を洗えないため、食材を活かせないという現実もありました。
避難所では、ストーブの近くで長時間過ごすうちに脱水症状になる方もいました。経口補水液、レトルトのおかゆ、すぐに口にできるお菓子。体力を落とさないための「そのまま食べられるもの」が強く求められていました。現地から野菜ジュースのリクエストが届いたときは、体が本能的に栄養を欲しているのだと感じました。

「食べることが、生きることにつながる。」
その当たり前の事実を、私は現場で何度も痛感しました。
令和8年になった現在も、珠洲市や輪島市で支援物資の配布や炊き出し活動を続けています。
時間が解決してくれるわけではありません。仮設住宅に移ったけれど落ち着かない方、スーパーが遠く買い物が不便な方もいます。炊き出しの場で「この一食がどれほどありがたいか」と声をかけていただくたび、食事は栄養だけでなく、心を支える存在なのだと実感します。
だからこそ、日常の中で少しずつ「食事の備え」を意識していくことが大切だと思うのです。
備えというと難しく感じるかもしれませんが、まずは家族で話すことから始めてみませんか。
「地震が来たらどこに集まる?」
「連絡が取れなかったらどうする?」
そんな会話を食卓で交わすだけでも、大きな一歩です。
食事の備えも、特別なことから始めなくて大丈夫です。おすすめは、身近な100円ショップです。常温で保存できる食品が数多くそろっています。スナック菓子、ジャム、羊羹、ふりかけ、レトルトカレーなど、自分の好きなものを選んで備えておくことがポイントです。

非常時こそ、食べ慣れた味が安心感をもたらします。使ったら買い足す「ローリングストック」を意識すれば、無理なく続けられます。
今回は、備えておきたい食材を使って親子で一緒に作れる、火や包丁を使わない一品をご紹介します。
彩りいなり寿司

材料(2人分)
作り方
- 1. アルファ化米に水、もしくはお湯を注ぎ、表示通りの時間待ちます。
- 2. 戻ったごはんを五等分にし、いなり揚げに詰めます。
- 3. 好きな具材を彩りよくトッピングして完成です。

味付きいなり揚げをおすすめする理由は、小さなお子様からご高齢の方まで、揚げからじゅわっと広がるだしの風味で食べやすく仕上がるからです。
また、いなり寿司だけでなく、うどんにのせたり、炊き込みごはんに加えたり、お餅をはさんだりと、さまざまなアレンジも可能です。

お花見弁当としてもおすすめです。
災害後、停電などでテレビが見られなくなったときでも、お子さまと一緒にごはんを作ることで、会話を楽しみながら過ごすことができます。色とりどりの具材をのせるだけで食卓は明るくなり、自然と食欲もわいてきます。普段から一緒に作って食べることを実践していれば、「備えることは楽しいこと」というメッセージにもなります。

15年前の教訓を未来へつなぐのは、私たちの日常です。
今日の備えが、明日の安心につながります。
まずはスーパーやコンビニ、ホームセンターなど、普段の買い物を防災の視点で見てみてください。
大切な人の命を守るために、暮らしの中にやさしく「備え」を取り入れていきましょう。