「理想のキッチン、私の場合」上田淳子さん×有賀薫さん 対談

特別企画

2022.09.15

料理する人のベースとなる場所、キッチン。みなさんはご自宅のキッチンに満足されていますか?使いづらさを感じていても改善の仕方が分からないこと、多々ありますよね。今回はご自宅のキッチンをリフォームされた経験もある料理のプロのお二人をお招きして、「理想のキッチン」をテーマにじっくりお話していただきます。

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お話を伺った人

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上田淳子うえだじゅんこさん

兵庫県生まれ、料理研究家。本格的な西洋料理から日本の家庭料理、スイーツやパンまで守備範囲の広さは業界でもトップクラス。自らの料理研究だけでなく、現代人の実際的な生活に根差した「日々どう食べ、どう作っていくか」といった提案にも定評がある。

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有賀薫ありがかおるさん

東京都生まれ、スープ作家。季節感があって作りやすく、「食べてみたい」を喚起させるスープレシピの数々がSNSで人気を集める。日常の料理においてどうすれば「よりラクで、楽しいか」「料理のおもしろさを感じてもらえるか」を念頭に置いた発信は多くの人々に支持されている。
アイスムでは「耳で楽しむおいしいスープレシピ」を連載中。

つくり上げたのは、コックピットのようなキッチン

ーー理想のキッチン、というのが今回のテーマです。人によって理想の形もいろいろでしょうが、まず上田さんにお聞きします。今年引っ越しをされてキッチンをリフォームされたばかりだそうですが、一番大事に考えたポイントは何だったのでしょうか。

上田

私は「動線のよさ」なんです。動線と言いますか、「あまり動かないで済む」キッチンが理想。軸足一つですべてが片付き、無駄な労力を生み出さないで済むような。

ーー具体的にはどんな感じなのでしょう。

上田

すべてに二歩で手が届く感じです。うちはL型キッチンですが、作業するところの脇に流しがあって、コンロもあって、冷蔵庫もある。動線が悪いと「反復横跳び」みたいになってしまうでしょう。台所にいる時間が長いですから、動いたほうが体のためにはいいけど、効率のよさを重視しました。

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(上田さん提供写真)

ーーなるほど、「すべてが二歩圏内」なのですね。

上田

まさに!コックピットのようなキッチンです。

あと、物を取る時にしゃがんだり、手を伸ばしたりしなくても済むように収納を考えています。親がキッチンで使いづらさを感じているのを見てきましたから。若い時は分からない苦労が、この年になると分かります。

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ーー年齢と共に、考えるべきキッチンのポイントも変わってくる。確かにしゃがむ、背伸びするといった動作が料理中に多いと、小さなことのようでも疲れますね。

有賀

分かります。動線のよさや物の取りやすさって本当に大事ですよね。私もそれらのことを大切に考えました。

作る場所でもあり、食べる場所でもあるキッチンが理想

ーー有賀さんもここ数年内にキッチンを改造というか、増築されましたが、一番大事に考えたことは何でしたか。

有賀

はい、それは「キッチンをコミュニケーションの場に」ということでした。というのは、私の家はマンションですが、キッチンとリビングが完全に分かれていて。ずっと料理しては運んで、行ったり来たりという状況でした。家族だけでなく、うちに来てくれた人みんなが使えるキッチンを作りたいと思ったんです。

ーーそこでリビングに、アイランドキッチンを作られた。ミングルと呼ばれていますね。「混ぜる、一緒にする」という意味の英語で、「その場にいる人が料理を一緒にする、共有する場」的な意味で。

有賀

そうなんです。真ん中にIHコンロがあり、流しと食洗器も組み込みました。コンロ上には空気清浄機機能のあるライト。真後ろに作った棚から食器も鍋もすぐ取り出せます。冷蔵庫はうちも二歩の距離にあります。

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(有賀さん提供写真)

ーーごく近い距離内ですべてが完結するんですね。

有賀

作る時間と食べる時間が合体する場所をつくりたかった。食にかけられる時間が短くなっている今の時代、これなら一緒にいられる時間が長くなるな、いいなと思って。

ーー家でごはん会をやると、料理する人はずっとキッチンにこもっているような状況も起こりやすいですけど、ミングルはそういうことがない。

上田

作っている人も会話に参加しやすく、またそれ以外の人が作っているところを見やすいつくりは理想的ですよね。

有賀

手伝ってもらうにしても、参加しやすい雰囲気がキッチンにあるというのが大事だと思うんです。

そういえば最近、私の妹もキッチンをリフォームしたんですよ。コンセプトが「合宿所のキッチン」で。どこに何があるか全部わかるようにしてあるんです。妹は、子ども二人と同居していて四人家族。誰かがキッチンを使いたい時、困らないように。

ーーそれなら料理したい気分の時、スッと行動に移しやすいですね。

上田

うちも鍋とお皿はオープンにしてあるんです。定年間近の夫にいかに料理に参加してもらうかは現在テーマの一つで。全然やらないわけじゃないんですけど、基本的には専業主婦に育てられた世代の人なので。今後もし、私が入院でもしてしまった時、どこに何があるかもわからないんじゃ困りますからね。

有賀

ああ、うちの夫はキッチンで何がどこにあるかは全然わからない…(笑)。料理しないわけじゃなく、小さい頃によく作ったらしいホットサンドはやりたがるんですけどねえ。

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キッチン用具の収納と整理に関して

ーーキッチン内の整理など、おふたりはやっぱりお得意なんでしょうか。

有賀

私は全然ダメ!整理整頓、本当に苦手なんです。いろんなノウハウがあるのは分かりますけど、どうやったらいいのか…。だから道具を最小限にして、「一番よく使うものをすぐ手の届くところに」というのが私の決まりなんです。包丁、まな板、菜箸、へら、おたま、しゃもじぐらい。

ーーでも、包丁やへら一つにしても、何種類もあるのでは?

有賀

いえいえ、毎日使うへらは結局1~2本ですよ!

上田

私もへらは同じような本数ですね。流しにあまり溜めたくないので、へら以外でも基本は洗いながら使ってます。いろんなメーカーのものをこれまで試してきたから、へらにしても何にしても「これ!」というのが決まっていて。

有賀

私は料理家になったのが遅いですから、仕事を始めてからあれこれ試すようになったんです。それまでは、不便と思いつつもずっと使っていて。最近ようやく「これ!」というのが決まってきました。スープ作家ですから、おたまだけはいろいろ追求してきたんですけど。

上田

おたまにしても、違いますよね。すくえる量、深さ、持ち手の握りやすさ…ある程度いろいろ使ってみないと、しっくり来るものに出合えない。

プロの道具を一通り使って、家庭用のも使ってみて、たどり着いたものだけが今残っていますね。シチューや煮込みをすくうにはいいけど、汁をすくうには向かないなとか、細かいこだわりがいろいろある。

有賀

道具って手で持つものだから、その人の手の大きさとか、フィジカルな条件で人によってかなり変わってくるし。いろいろトライがあって、その結果物を減らしていくことができる。

上田

いきなり断捨離できる人って、いないですよね。

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ーー断捨離といえば、お二人ともここ数年の間にお子さんが独立されました。食器など、整理されたものも多かったですか。

有賀

息子が一人立ちしたのが四年前ですが、そのとき夫と二人分の食器に減らしました。ミングルにして収納は増えたんですが、スープ用の鍋の収納にしたので、今まで使っていたキッチン用品や食器を置くところは減ったんです。人が来た時、恥ずかしいぐらい食器は少ないの(笑)。

上田

うちの子どもたちは使っていた食器を持っていきました。夫婦二人用のと、時々帰ってくる息子たちが使う分の食器があるだけです。引っ越しをして、仕事場と家庭用のキッチンが二つある状態になり、食器もそれぞれ分けて置けるようになったので、動きやすくなりました。いらないものも処分しましたし。

子育てが忙しい時期はきれいに整頓なんて無理!

ーー先ほど有賀さんもお話されましたが、上田さんは普段よく使われるキッチン用品など、出しておく派ですか。それともしまわれていますか。

上田

基本的には出している方なんですが、最近はしまっています。アイランドにしたので、出しっぱなしだとゴチャゴチャになりやすいから。子どもがいた頃は調理道具も調味料も出してありましたね、毎日三度のごはんづくりじゃ、片づけるなんて無理(笑)!

有賀

無理ですよね!

上田

なんなら「とりあえず置き場」を作って、なんでもそこにひとまず置いて、落ち着いたときに片づけるぐらいでいい。無理ですよ。

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有賀

私はまさにそんな感じで、使ったものは全部まとめて置いていて、できる時にしまっています。収納場所があるからって整理整頓できるわけじゃないですよね。私は収納スペースがあればあるほど混乱してしまう。どこに何をしまったか分からなくなって。片付けが苦手な人ほど、物を持たず、収納をコンパクトにしたほうがいいのかなって思うんです。

上田

キッチンが広いと、片付けをやらなくなるデメリットもあると思います。とりあえず置いておける場所があると「やりながら片づける」という考えが無くなって、気が付くと片づけものがてんこ盛りになることも。

「持っているものの7割に」と決めて整理する

ーー調理道具もそうですが、お二人は職業柄、調味料やスパイスなども増えがちではありませんか。

上田

慎重な方ですね、よっぽど気に入ったものだけ買うようにしています。

有賀

私、スパイスなんかは定期的に整理するんですよ。どうしても増えちゃうので「全体量の7割」にしようと決めて、もう強制的に。

上田

ああ、「押し出す」みたいな感じで?

有賀

そうなんです!期限は過ぎているけど、まだ使えるよな……とは思いつつ。

上田

腐るものではないですからね。

有賀

でも整理しないと、私はダメなんですよ。何か買いたいものが見つかったときに「棚がいっぱいだし」ってなってしまうから。

上田

私も香辛料はやっぱり増えがち。半年に一度ぐらい全部出して、古いのは整理する。片付けはきらいじゃないけど、散らかすのも好きなので(笑)、普段はなかなか整理ができない。忙しい時は、使ったものを所定の位置に戻せないんですよ。ていねいな方は戻すんでしょうけどねえ。だから私は、定期的な片付けリセットが必要なタイプ。

ーーそうやって整理されたものを、キッチン内でどう置くか。工夫はされていますか?

有賀

先ほど言った一番よく使うもの、私は「一軍」って呼んでいるんですけど、それがすぐ手の届くところにある。一週間に二~三度使うようなものは「二軍」で、一番上の引き出しに、撮影でしか使わないものや季節仕事で使うようなものは二番目の引き出しに。同じアイテムであっても、使用頻度に応じて自分との近さを変えています。

上田

自分がキッチンでどう動くのか、じっくり考えて物を入れる場所を決めています。どこに何があったらラクなのか。だから私は「ここには〇〇を入れてください、置いてください」とメーカーさんが決めて設計してある棚や引き出しがとても苦手なんですよ。包丁はここ、箸はここ、みたいな感じで。

有賀

ああ、わかります!!

上田

食洗器もそうですよね。お茶碗と大皿、取り皿の家族分が入るように設計されているから、家族全員でパスタ食べたらもう入らない。国産の食洗器ってむずかしいですね。

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パントリースペースが広いキッチンに憧れ

ーーお二人はいろんな方のキッチンも見てこられたと思いますが、よそのおうちで「ああ、こういうのいいな」と思われた点など、ありますか。

上田

そうですねえ…パントリー部分がちゃんとあるおうちはいいですよね。つまりは食品庫、パスタや缶詰なんかを入れるところ。

有賀

ああ、これもわかるなあ。うちはキッチンにそういうスペースが全然ないんです。

上田

うちは棚一つを専用にしていますが、パスタなどの乾物類からお茶やお菓子、瓶ものの予備、洗剤の買い置きなどが入っていて。こういうの、いただきものもあって増えやすいじゃないですか。防災用の食品や懐中電灯なども入れているし。知り合いの家には、ウォークインクローゼットのようなパントリーがあって、うらやましいなあと思っています。

ーー瓶ものというと、どういうものですか。

上田

お酢とかの調味料や炭酸水とか。あとはまあ…大体お酒かな(笑)。

有賀

私はそれらのもの、場所がないから洗面所がある部屋の棚に入れているんです。湿気は気になるけど、しょうがなくて。梅干しなんかを置けるところがほしい。そしてパントリー部分も全然整理できていません…。

ーー有賀さんそんな、小声にならないで(笑)。上田さんはパントリー整理、いかがですか。

上田

私、パントリーも“衣替え”が必要だと思っているんです。夏前に一度のぞいて「切干大根、使い切っておくか」と考えたり、秋冬に買ったものをまとめて使うことを考えてみたり。そうそう、うちは食器類も“衣替え”するんですよ。夏が近づいたら土鍋はしまって、素麺をゆでる大きな鍋を出して、ガラスのうつわ類を手前に出す、みたいな。

ーーああ、なるほど!

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有賀

夏と冬でよく使う食器って、絶対違いますもんね。「手前に出す」といえば、私は冷蔵庫の手前と奥とで置くものを分けています。たとえば豆腐などは奥には置かない。味噌とかビール、瓶詰めのものは奥に。

上田

私、ビールは手前(笑)。

有賀

ビールだったら奥にしまっても私は絶対に忘れないから(笑)。ざっくりでも鮮度を考えて冷蔵庫の前と後ろとで置き場所を変えると、大惨事は起こりませんね。

上田

うちは「早く食べなきゃいけないバット」が冷蔵庫内にあるんです。そこに入れないと行方不明になってしまう。

あと、保存容器はパイレックスの縦長のものを使っています。スタッキングできて、中身が見えて、多く収納できますよ。中身が見えないとやっぱり忘れてしまうから。

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(上田さん提供写真)

日本のキッチンに、もっと光を

ーー最後の質問です。「日本のキッチンって、もっとこうだったらいいな」と思われること、ありますか。

有賀

やっぱり、もっと明るいといいですよね。私はずっとキッチンに窓がなくて、暗くって。マンションってそういうつくりのところ、多くないですか?料理がつらい時、面倒な時に明るい場所で始められると、気持ちがずいぶんと違うんですよ。

上田

キッチンが中央にあって開放的なのと、すみっこにあって閉鎖的なのでは、やはり気分がかなり違いますよね。今も以前の家も、わが家のキッチンは、朝から夕方までしっかり明るい場所にあります。朝日を浴びるとやる気が出るし、日が傾く夕暮れは「さあ、急いで晩ごはん作らなきゃ!」と当たり前に思える。自然の光って、そんな風に気持ちを上げてくれるものなのだと思います。

有賀

料理するときって「最初の一歩」も大事で、明るい場所で、みんなの居場所と近いところで料理できると、かなり違いますよね。

ーー今日は本当に、ありがとうございました。

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白央篤司

「食と暮らし」、郷土料理がテーマのフードライター。著書に『自炊力』(光文社新書)、『にっぽんのおにぎり』(理論社)など。料理家としても活動し、雑誌や食品メーカーへのレシピ提供も定期的に行っている。

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取材・文:白央篤司
撮影:村上未知

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