辻村哲也さんの「これでもじゅうぶん」感覚を大事にする食生活

特別企画

2021.09.25

「日々の料理」、皆さんは何を大事にされていますか。手軽さ、栄養、おいしさ……と、ポイントもいろいろ。中でも味に関しては多くの人が気にかけているでしょうね。ただ「おいしさ」も人によってそれぞれ。食べ飽きない味を大事に、毎日のごはんの快適な省力化を考える、辻村哲也さんにお話を伺いました。

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聞き手:フードライター 白央篤司

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お話を伺った人:辻村哲也さん

プロダクトデザイナー兼、料理人。食イベントを定期的に開催、出張料理も行っている。手間のかからない日常食からハレの日のごちそうまで守備範囲は広い。メシ通、オトナサローネでレシピ記事を連載中。著書に『付箋レシピ』がある。

「じゅうぶんおいしい」という感覚を大事に

ーー辻村さんが以前にツイートされたことが、とても印象的でした。「食べてすぐ『うまい!』となる料理って、家で作る意味はあるのだろうか。外食や市販のものは商売だから分かりやすいおいしさが必要だけど、家で食べるものなら味つけは最小限で、こっちから探しに行って見つかるくらいの味が快適なんじゃないかと思う」といったつぶやき。

とある料理番組を見ていて感じたことなんです。タレントさんが試食をすると瞬発的に「うまーい!」と言う。それって「瞬発力のあるおいしさ」なんだろうなと。世の中はやっぱり、そういうおいしさのほうが評価される傾向にある。SNSでバズるレシピも、瞬発力のあるものが多いように感じます。そういうおいしさもいいけど、続くと食べ飽きたり、食べ疲れしてしまうと僕は思っています。「うまい!」というのだけが料理の価値じゃないよね、と言いたくて。

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ーーひと口食べて「うまい!」とはなりにくいけど、じんわり感じるおいしさ、食べ疲れしないおいしさも大事だよね、ということでしょうか。

はい。そういうのが、「家ごはんの味」じゃないかと思うんですね。少なくとも僕はそういうものが家では食べたいから。外食ではやっぱり、すぐに「うまい!」と感じられるものが評価されると思うんですけど、「家だったらこれでじゅうぶんだよね」という感覚を大事にしたいんです。

ーー辻村さんは定期的に食のイベントをやられています。そういうときは、普段作られているようなものは出さないのですか。

そうですね。自分の料理にお金を払ってもらうからには、その価値のあるものを提供したい。手間ひまをかけたり、珍しい材料や調味料を使ったり。あるいは、いろんなものをちょっとずつ食べられるようにするなど、工夫をしています。逆にいうと、そういうことは普段の家ごはんではやれないですね。

ーーそうですね。もちろん、手間ひまかけるのが好きで、毎日でもやりたいという人は別として。家庭料理も家ごとにスタイルそれぞれですけど、基本は「担い手がつらくない、無理のない形」であってほしい。

辻村さんの家ごはんの形

ーーSNSを拝見していると、「一汁一丼」スタイルが多いですね。

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ある日の辻村さんの一汁一丼。豚とキュウリのピリ辛あんかけ丼、トマトやオクラなど夏野菜がたっぷり入った味噌汁の組み合わせ。

そのパターンにたどり着いてからラクになりました。自分のやりやすい形が見つかったんですね。どんぶりにしたのは、洗い物を少なくしたいという思いから。ただ、たまに「これはどんぶりの意味あるのかな?」と思ってしまうことも(笑)。

ーーそれはどういうことですか?

たとえば焼き鳥丼って「ただのせてるだけだよな」と。親子丼みたいに卵でとじてあると、ごはんに汁や卵が絡んで、どんぶりとしての意味があるというか。

ーーおかずをのっけるだけでは「どんぶり」として成立しないと。

例えばパスタ料理ではパスタと具材やソースとの一体感が重要ですよね。だから丼も……いや、そこまで真剣に追及してるわけじゃないですけどね(笑)。

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ーーいえ、わかります(笑)。たしかにとろみや汁気のあるおかずのほうが「どんぶり」としての一体感が生まれて、のっけた意味が生まれますね。 

そして一汁のほうは毎回野菜がたっぷり。

「野菜は汁物でとろう」という意識はありますね。汁だと青菜もたくさん食べられる。

ーーサラダだとそうはいかない。青菜で副菜にするのもいいけど、カロリーや塩分、そして手間も増えてしまいますからね。洗い物も。

「肉や魚介をメインに、たんぱく質のとれるおかず丼と野菜の汁物」という組み合わせか、「野菜のおかずをのせたごはんと豚汁などの組み合わせ」のどちらかです。昔は1人分の味噌汁を作るのにかなり手間を感じてましたが、慣れたら気楽になりました。

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ある日の組み合わせより、自家製なめたけ丼と小松菜をたっぷり入れた豚汁。

ーー味噌汁だと、私は2~3回分をまとめて作ることも多いですが、辻村さんはその都度1人前を作るんですか。

はい、その日の丼ものに合わせた味噌汁を作りたいという気持ちもありますね。作り置きが好きじゃないのもあって。飽きちゃうんです。

ーーこれもかなり人によりますね。週末に4~5日分のおかずを作ってしまう人もいれば、その日の気分に応じて毎日違うものを作りたい人もいる。

僕は後者です。汁物に使った野菜を次の日は主菜に使って、その日余った食材をまた翌日に別のおかずに利用して……なんて使いまわしがうまくいくと、すごく気持ちがいい(笑)。僕なりの自炊の楽しさはこういうところにもあります。

日々の料理で大切にしていること

健康を意識しているのはありますが、それもあまり厳密ではなくて。肉ばっかりにならないようにして魚も意識的に食べようとか、野菜をしっかりとろうとか。とりあえず、飽きずに作っていけたらいいな、と。仕事をしながらですから、手間がかからないように。

ーー「何を手間と感じるか」って、人によってかなり違います。辻村さんはいかがですか。

以前にこんなことがありました。僕、菜の花が好きなんです。ゆでるときって、葉と茎を分けておくんですよ。茎から入れて、葉は後から。そうすると茎はしっかり火が通って、葉はシャキシャキに仕上がっておいしいから。友人に言ったら「そんな面倒くさいことしない!」って。

ーーその方は料理する人なんですか?

します。その人は「料理は20分以内で」というルールを決めているんですよ。だから20分以上かかるものは自然と献立から外れる。

ーー自分なりのルールって、料理してるとだんだん出来てきますね。何度か作ってみて、食べるのは好きだけど作るのが自分にはしんどいな、面倒だなと思ったらスッパリ「うちでは作らない」と決めるのも、自分の救済法だと思っています。辻村さんは何かそういうの、ありますか。

ルールというか、家でのごはんは作り始めてから食べ終わって片づけるまで、1時間以内ですませると決めています。

ーーなるほど。それ以上手のかかるものは、日常では作らないというルール。

そうですね。あ、作ったものを最後にSNSにアップするまでで1時間です(笑)。

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「薄い」と「これでもアリ」の境を探ってみる

ーー話は最初に戻るんですが、「こっちから探しに行って見つかるくらいのおいしさ」って辻村さんの表現がやっぱり、とてもいいなと感じます。具体的にどういうことか、教えてください。

人に食べてもらうときや、お店で出す食事って、旨味や塩気や甘味などの分かりやすいおいしさが必要ですよね。それはたしかにおいしいけど、普段ならそこまでいかなくてもいいかな、と思うんです。「薄味だけど……まあ、いいんじゃない?」って思えるところを探しにいく感じでしょうかね。これはこれでアリだよね、と。

ーー食べ始めは「ちょっと薄いな」と思っても、食べ終わるときには満足できるぐらいの味つけが心地よいこともありますね。

この料理、どこまで素っ気なくても自分は大丈夫だろうか、満足できるだろうかというのを探して、アリと思えるところが「こっちから探しに行って見つかるくらいのおいしさ」かな、と。味つけしすぎないのって、素材の味に向き合うことにもつながりますよね。

ーー「自分にとって必要最低限の味つけ」を探る。ある程度料理に慣れてきたら、試してみたいことですね。「自分が落ち着く味」って、探ってみないと自分でもなかなか分からない。

濃い味がダメとかそういうことじゃ全然なくて。自分が欲している味をその日の気分に合わせて用意できたら、それこそ自炊ならではの料理だと思います。

味付けの濃さだけでなく、そもそも家事としての日々の家庭料理は70点でいいんじゃないかと思ってます。100点を目指して辛くなるより、無理せず続けていけることのほうが大切かなと。お店では出てこない70点の料理は、それはそれで愛すべき素敵なものだと思いますよ。

ーーああ……おっしゃるとおりですね。家はごはん屋さんじゃないからこその良さがある。他に、日常の料理で大事にされてることはありますか。

日々の料理に関して思うのは、「これなら毎日でもいいや!」というメニューが一つでもあるとラクですね。僕の場合は、目玉焼き納豆丼。いざというときは、これでいい。これと青菜入りの味噌汁でじゅうぶん。

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忙しいときの辻村さんの定番、目玉焼き納豆丼。組み合わせるのはサバの水煮(缶詰)にジャガイモ、春菊入りの味噌汁。

ーー作りやすくて、栄養的にもいい組み合わせですね。

毎日のように違うメニューを食べることが普通になっていますよね。それは豊かなことでもあるけど、必ずしも「昨日と同じものじゃダメ」ということではないわけで。うちの母親は10品あるかないかのレパートリーで回してました。1週間の中で同じメニューがまた出てくることもよくありましたし。

ーー先日辻村さんが考案されてた「メイン具材は一種類だけの冷やし中華」もおもしろかったです。トマトとかきゅうりをメインにして。こういうのもアリなんだと、読み手をラクにするような提案でしたね。

冷やし中華って具だくさんで、一つ一つ作ると結構大変ですよね。だから面倒で作らないという人もいると思うんですけど、一種類だって成立するよと提示したくて。こんなのでも、冷やし中華っぽいものはできるよ、と。

僕のレシピ発信って、そういうのも役割の一つだと思っているんです。基本的に選択肢はいっぱいあったほうがいいと思うから。それは料理だけじゃなくて、社会もそうですよね。

白央篤司

「食と暮らし」、郷土料理がテーマのフードライター。著書に『自炊力』(光文社新書)、『にっぽんのおにぎり』(理論社)など。料理家としても活動し、雑誌や食品メーカーへのレシピ提供も定期的に行っている。

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取材・文:白央篤司
撮影:猪原悠(TRON)

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