食の専門家が語り合う 調味料の世界 ~ベーシックからマニアックまで~

特別企画

PEOPLE
2021.04.09

日々のごはんづくりに欠かせない、基本的な調味料。みなさんはどう選んでいますか。「種類が多くて、選ぶのも大変」「安いものは味もそれなり?」など、調味料に関するお悩みもいろいろあるかと思います。

前回、調理道具に関する座談会を行ったところ、たくさんの反響をいただきました。そこで第2弾として、調味料をテーマに座談会を実施。食に関わるベテランの方々に、たっぷりお話をうかがいました。

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お話を伺ったみなさん

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重信初江(しげのぶはつえ)さん

作りやすく、分かりやすい家庭料理のレシピに定評ある料理研究家。テレビ、料理雑誌など幅広く活躍中。近著に『味つけご飯とおみおつけ』(東京書籍)など。著書多数。

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きじまりゅうた さん

祖母、母ともに料理研究家。「常に誰かが料理している」ことが日常の環境で育つ。大学卒業後、アパレル会社に勤務したのち独立、料理の道へ。現在はMCをつとめるテレビ番組を持つなど、各メディアで人気者。

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久保木薫(くぼきかおる)さん

食を中心に活動するライター。和・洋・中・エスニック問わず幅広い料理に造詣が深い。日本ワインと揚げ物、練り物を偏愛する。近年は「小つまみ」づくりを提唱するコツマミストとしても活動中。

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白央篤司(はくおうあつし)

「食と暮らし」や郷土料理をテーマとするフードライター。著書に『自炊力』(光文社新書)、『にっぽんのおにぎり』(理論社)など。オレンジページやメトロミニッツなどでコラム連載中。今回は司会・進行も担当する。

味つけの基本中の基本
種類や個性の違いを知っておこう

白央

調味料もたくさんありますが、まず基本的なものからいきましょう。俗に料理の「さしすせそ」なんて言いますね。砂糖、塩、酢、醤油、味噌。味つけの根本にして基礎の、塩からうかがいたいです。みなさんは家で、どんなものを使っていますか。

重信

いきなり来ましたね、塩問題……。

白央

お、何かプロブレムが?

重信

あのね、私は普段「赤穂の天塩」を使ってるんですよ。いわゆる「粗塩」です。でも、塩って他にもいろいろあるでしょう。「粗塩」で作ったレシピを、「食塩」でやるとすごくしょっぱくなっちゃう。

久保木

食塩だと直球に塩味だけになっちゃうよね。

白央

食塩はいわゆる精製塩で、塩からさが際立ちますね。水にもすごく溶けやすい。対して「粗塩」は精製されてない分、海水に含まれるにがりやミネラル分を含むから、まろやかさがあるというか。

 

あとは「岩塩」なんかもありますね。海水が地下で結晶化したもので、日本では産出されない塩。

重信

「アルペンザルツ」とかね。岩塩もさらさらしてて使いやすいし、肉や魚の下塩にふるときもいいかな。

きじま

塩って難しいよね。というのは、醤油だったら大さじ1が大さじ1半になっても「ちょっとしょっぱいかな?」ぐらいで済むけど、塩の場合は、「少々」と「小さじ1/4」、「小さじ1/2」の違いで、味が相当変わってしまう。

白央

塩だと少量でも、味への影響がダイレクト。「ちょっとだから変わらないだろう」と思って適当にやると、失敗につながりやすい。

きじま

俺、普段は「焼き塩」なんですよ。さらさらで使いやすくて、計量もしやすい。対して粗塩って計りにくくて。漬けものを仕込むときなんかに使うのは粗塩なんだけど。

白央

漬けものを仕込むときは粗塩って分かるなあ。粗塩の特徴として食材に付着しやすい、というのもあるようです。

重信

粗塩は少し湿り気があるんだよね。粗塩と焼き塩では小さじ1のグラム数も違うし。

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白央

焼き塩は粗塩を炒って、水分を飛ばして作るんですよね。加熱することで粗塩より塩気がマイルドにもなる。

久保木

食材に塩をふるとき、まんべんなくふりやすいのはやっぱり焼き塩ですよね。味つけに使うのも勿論いいし。パスタをゆでるとき、お湯に入れる塩ならなんでもいい。直接つけて食べる塩には、ちょっと高級な塩を少量買って楽しむのもいいし。

白央

料理し始めの人たち向けにすすめるとしたら、塩気もおだやかで、さらさらとして計量しやすく、下味にふるときにもいい、焼き塩ですかね。

重信久保木きじま

賛成!

きじま

そしてひとり暮らしであまり料理しない人だったら、少量で買うのがいいと思う。なかなか使い切れないからね。

白央

はじめから密閉容器に入っていて、使う分だけ出しやすいものを選ぶのもおすすめかな。プラ容器に移しかえるのも手間ですからね。チャックがついてるものだとなお保存しやすい。

久保木

それは砂糖でもいえますよね。ひとり暮らしであまり料理をしなければ、塩でも砂糖でも、少量のものが便利!

白央

塩の種類ってあまり気にしないで買うことが多いかもですが、パッケージに特徴が書かれていることもあるので、まずはチェックしてみてほしいですね。

砂糖

プロは料理によって
いろいろ使い分けていました

白央

じゃあ次は砂糖にいきましょう。普段の砂糖は何を使っていますか?砂糖もいろいろ種類ありますね。

重信

ごく一般的な上白糖を使ってます。料理に使うなら、全般的にこれでOKだと私は思う。

白央

上白糖は使いやすいのが個性ですよね。ちょっとしっとりしている。

きじま

俺も重信さんと同意見。コクを出したいときや、こってりした味つけにしたいとき、たまに「ざらめ」を使うかな。

久保木

「煮魚を作るときはざらめ」という料理家の先生がいて、真似してやってみたら確かにおいしかった。

白央

黄褐色で大粒の砂糖、ざらめ。使うと照りが出ますよね。すき焼きの割り下作るときに入れるという人も。

きじま

俺、ざらめは煮豚を作るときによく使ってる。ガツンとした甘みを出したいときや、ドロッとした感じを出したいときとか。あとコクを出すんだったら「三温糖」もいいね。煮ものに最近よく使います。

白央

「三温糖を使うなら、この煮ものが向く」とかあるんですか?。

きじま

肉でも魚でも、野菜の煮ものでもOK。

久保木

ちょっとカラメル感が出るよね、三温糖を使うと。

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白央

「きび砂糖」を使う人も多いなと感じるんですが、みなさんはどうですか。日新製糖のHPには「さとうきび由来の成分が残っており、他のお砂糖には無い、原材料の風味が活きたお砂糖」と説明されています。薄茶色で、三温糖と色が似ていますね。

久保木

私は好きですよ。ただ料理の仕上がりの色は濃くなりがちですよね。きんぴらとか作るならいいけど。

白央

味は好みもあると思いますが、「薄茶色の砂糖は、塩と間違えにくいからいい」という声もあるんです。

きじま

ああ、なるほどねえ!

久保木

私も基本的に上白糖を使うんだけど、グラニュー糖、きび砂糖、黒砂糖(さとうきびのしぼり汁を煮つめて固めたもの)をそれぞれ使い分けています。以前、中華料理の先生に「黒砂糖を使った方が中華っぽい味になる」って教わって。実際そうだった!

白央

黒砂糖は豚の角煮作るときにたまに使うなあ。

久保木

グラニュー糖はすっきりした味わいになるので、甘酢を作るときに使っていて。きび砂糖はコクが出るので煮物に。

重信

グラニュー糖、めちゃくちゃすっきり仕上がるよね。だから私は煮物には使わないな。ジャムやお菓子を作るときに使ってます。

白央

グラニュー糖はお菓子づくりのイメージですよね。あまり料理しない方だと、「スティックシュガーを料理用に使っている」という人もいました。

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重信

ああ、それいいよね。それで全然いい。あと、砂糖を料理に使うのに抵抗があるという方もいますね。私はそういう方に向けてレシピを出すとき、アガベシロップ(リュウゼツラン科の植物から取れるシロップ)を使っていて。蜂蜜やメープルシロップもいいんだけど、匂いがあって味も濃すぎる。アガベはサラッとしててクセがない。

白央久保木きじま

へえええ!

重信

きんぴらとかにも使ってる。普段の砂糖量よりちょっと少なめぐらいの感覚で使うといいかも。

久保木

おいしい料理を作る上で、きちんと甘みをつけるのってやっぱり大事。砂糖はうまく使わないとですよね。

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砂糖の代わりに使えるアガベシロップ

醤油

和食に不可欠な調味料
おさえておくべきは保存法!

白央

醤油はどうですか?

重信

キッコーマンの「特選 丸大豆しょうゆ」を使ってます。一番安いラインじゃなくて、ちょっといいやつ。

きじま

醤油にかぎらずだけど、「下から2番目ぐらい」のを選んじゃうよね(笑)。

重信

最近「ピューッ」ていうのあるじゃない、あれいいよね。

白央

「ピューッ」って。分かりますけどね(笑)、酸化防止ボトル。

重信

直接醤油を何かにつけるときにいい。お刺身とか。ただ、料理に使うとなると色が薄くて、こっくりした色合いが出にくいね。

きじま

サラッとして香りもいいし、酸化しないのはいいんだけど、煮魚なんかに使うと「パンチ足んねえな?」って思うときは、ある。

重信

そうそうそう。だから料理用には普通のボトルの醤油を使ってる。ただ普通のボトルの場合、開栓したら必ず冷蔵庫に入れて保存。

久保木

濃口醤油でも冷蔵庫に入れたほうがいい?

重信

うん、圧倒的に違いが出る!風味が落ちにくいよ。「ピューッ」てのは入れなくていいんだけど。

白央

醤油に限らず調味料類は「開栓後は要冷蔵」など、パッケージに保存方法が明記されてることが多いので、よくチェックしてほしいですね。

重信

醤油や油も少量のものを買うのがいいよね。料理をあまりしない人だと使い切れないことも多いだろうし。

きじま

たまにしか使わないなら、酸化防止ボトルがいいよ。

久保木

今はソースやみりんも同じようなボトルのが出てるよね。油なんかも。どれも必要量だけ出したいときに便利。

白央

ちなみに、濃口・薄口の使い分けってどうされてますか?

きじま

仕上がりの色を濃くしたくないときに薄口醤油を使います。けど、うちはあんまり使わない家でした。薄口は小さい瓶だったけど、濃口は一升瓶で買ってて。使用量が全然違う。

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重信

私は、お吸いものなんかは薄口でやるかな。

きじま

冬瓜(とうがん)を煮るときとかね。あ、そうそう。今テレビ番組で「一般家庭のおうちに行って料理する」という企画をやってるんですけど、「だし醤油」のある家がすごく多い。

白央

うちの親も常備してますね、冷奴によくそのままかけてる。ねぎとだし醤油だけでもう味わいが成立。

久保木

それでいうと、「白だし」(だしに白醤油や薄口醤油、塩、砂糖などを加えた調味料)もあるじゃないですか。私はおひたし作るとき、白だしをよく使ってる。水で薄めればすぐにおひたしの地ができるのがいいよね。里芋なんかを煮てもおいしい。

白央

色を薄く仕上げたい煮ものや、汁ものを作るときの「めんつゆ」として便利ですね、白だし。

久保木

そうそう。

白央

以前、「実際になめたり、食材に直接つけて食べたりするなら、高級な醤油のほうがいいと思うけど、煮ものなど加熱して使う場合はそんなにこだわる必要はない」と言われていた料理人の方がいて、印象的でした。自分も同意見なんです。

きじま

うん、そうだよね。本当にそう思う。

味噌

地域によって味噌もいろいろ
なじみの味噌をまず知って

白央

ひと口に味噌といっても、各地で好まれる味わいはかなり違うもの。ひとり暮らしをはじめて、スーパーで適当に味噌を買ってみたら、好みに合わず「全然減らない……」なんて人もいます。

きじま

味噌って“すり込み”だと思ってるんですよ。自分がずっと味わってきた味噌がやっぱり一番おいしい。だから実家で使ってるのをちょっと分けてもらってくればいいと思う。

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久保木

今ここにいる4人だって、使ってる味噌は全然違う味だろうね。同じ信州系の味噌(※味噌の中でも代表的なもののひとつ、関東甲信越を中心に親しまれる)だとしても、微妙にちょっとずつ好みの味わいが違うと思う。

重信

料理の本、レシピ本に「味噌」とあったら、信州系の味噌のことだよね。私も仕事で使うときは信州系の味噌。いただいたり、自分でも買ってみたりして、各地の味噌を使うことも多いけどね。

きじま

さっきも言ったけど、テレビ番組でいろいろなおうちに伺うと、「だし入り味噌」を使っている人が多い。

重信久保木白央

ああー、そうなんだねえ。

白央

「だし入り味噌は溶きやすくて、使いやすい」という声を聞いたこともある。

久保木

ひとり暮らしの父は、「これじゃないとダメ」というこだわりのだし入り味噌がありますよ。味噌を使うのってやっぱり、基本は味噌汁じゃないですか。だから「だし入り」タイプがラクで、歓迎されますよね。

きじま

でも料理に使うとね、だし入りだと随分味が変わっちゃう。味噌煮とか味噌炒めだったら、だし入り以外のものを使ってほしい。

スタッフ

そんなに変わるものですか?

きじま

だし入りはいろんな成分が入っているから、変わります。味噌といえば、旅行すると各地で手作り味噌がいろいろ売ってるじゃないですか。あれ、買いたくなるよねえ。

重信

うん、すっごいそそられる。道の駅なんかでね。あと、季節によっても味噌の好みって変わるな。私、夏の間はエンドウ豆で作った味噌を使ってて。甘めでほっくりとした豆の風味が感じられて、すごくおいしいんですよ。

久保木

東京・亀戸に「佐野みそ」って老舗があって、とにかく種類豊富に味噌がそろっているんです。私はいつも中辛の米味噌を買ってるけど、たまに麦味噌とか、そのときの気分で選ぶことも。甘めの味噌がいいときもあるし。

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重信

白央さんは味噌、どうしてるの?

白央

富山県の魚津を旅したときに出会った「宮本みそ店」さんのをここ2年ぐらい、取り寄せて使ってます。まろやかで塩気がやさしく、それでいてうま味が濃くて、溶きやすくてね。好みドンピシャ。

スタッフ

溶けやすさって重要ですか?

重信

うん、重要だと思う。

白央

余裕がないときなんか、サッと溶けてくれるとひと手間省けますからね。味噌こしとか使うと、洗いものも増えるし。

久保木

そうそう、味噌こしって意外に洗うの面倒くさいんだよね。

きじま

使ったことないなあ! 味噌こし使う人って、すごーくちゃんとしてる人のイメージ。

重信

私使ってるよ(ニヤリ)。

きじま

そっ、尊敬します。

重信

でもアシスタントさんが洗ってくれるからね……(笑)。

白央

味噌の中に入ってる大豆かす、あれ入れておきたい派ですか、入れない派ですか?

きじま

入れておくなあ。

重信

私も。味噌こし内に残ったのをわざわざまた入れるもん。

久保木

私も戻す。なんかもったいないよね。

きじま

じゃあ味噌こし要らないじゃん!

白央

それはほら、溶きやすくするためだけのツールということで(笑)。

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ベーシックなあの酢は
オールマイティな存在

きじま

うちでは、基本的に穀物酢を使ってる。小さい頃からずっと。酢が好きだから、いろいろなものにジャブジャブかけちゃう。

重信

あ、一緒!私も酢好き。

白央

穀物酢だとミツカンのがおなじみかな、値段的にも一番手頃で使いやすいですよね。スーパーだと米酢もおなじみですが、穀物酢との違いはどんな点?

きじま

穀物酢のほうが尖ってるというか、「すっぺえ!」って感じがする。重信さん、どうですか。

重信

うん、そうですね。尖った感じが嫌なときは、京都・斉藤造酢店の「玉姫酢」を使ってる。本当に酸っぱくなくて、上品で穏やかなんですよ。

久保木

「玉姫酢」は、それだけを野菜なんかにかけても料理として成立するかも。だし酢的な感じもありますね。

重信

村山造酢さんの「千鳥酢」や、飯尾醸造さんの「富士酢」も人気ですよね、使っている人が多い印象。どちらもおいしいお酢だけど、やっぱりちょっと高級なので、私は普段使いには、ミツカンの穀物酢で満足しています。

白央

ほぼそれ1種類ですか?

重信

洋風のサラダを作るときに白ワインビネガーを使うぐらいで。

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きじま

自分も仕事では穀物酢ばっかり。

白央

ということは、基本的に和・洋・中どのジャンルでも、酢を使うレシピは穀物酢で基本的にOK、ということでしょうか。

きじま

そうですね。酸味を加えるんだったら酢以外でも、かんきつ類をどう足していくかと考えることも多いし。レモンを足したりとか。

重信

酢やワインビネガーのガツンとした感じが苦手な人は、ホワイトバルサミコもおすすめ。

白央

カルディで売ってるやつを愛用してます! あたりが柔らかくて、すごく使いやすい。

調味に大きく関わるのが油
知っておきたいそれぞれの個性

白央

調味料ではないですけど、油も日々よく使うものだし、調味に大きく関わるのでお聞きします。ベーシックな油は、何を使われてますか?

重信

油ってこだわる人、多いよね。私は炒めものだと「太白胡麻油」、揚げものはキャノーラ油を使っています。オリーブオイルは気軽にドバドバ使える手軽なものと、少量を直接かける用のと分けてる。

白央

揚げ物にキャノーラ油を選ばれてる理由ってなんでしょう。

重信

いろいろやってみて、一番カラッと揚がるかなと。

白央

なるほど。きじまさんは油、どんなふうに使われてますか。

きじま

揚げ油だったら、どこでもあるような大容量のサラダ油。炒め油は重信さんと一緒で、「太白胡麻油」です。自分が使ってみた中だと、一番サラッとしていて、嫌な感じがしない。何にでも使えます。

 

オリーブオイルもやっぱり調理用と、直接かける用に分けています。調理用は特に決めてなくて、そのとき安いもの。オリーブオイルってプレゼントでいいのをいただくことがあるので、直接かけるときはそういうものを使うかな。

白央

油で「サラッと感」だったら、私は米油派だなあ。

重信

うん、米油もすごくサラッとしますよね。揚げ物に使ってみて、おいしく仕上がるなと思った。それで思い出したけど、菜種油ってけっこうクセがある。ちょっと重い感じがするというか。

久保木

うちも炒めものは米油。クセがなくてどんなジャンルの料理にも使いやすいですよね。冷蔵庫に入れても固まらないから、オイル漬けを作るときにもいいし。

 

ニンニクを買ってきたらみじん切りにしてオイル漬けにしておくんだけど、そのときは米油で漬けます。

 

揚げ油は私もキャノーラ油。やっぱりカラッと揚がる感じがします。オリーブオイルは、私は使い分けるのが面倒というのもあって、そこそこの値段のものを調理用と直接かける用、両方に使ってます。

白央

油って値段の張るものも多いですからね。高級なものも使ってみたいけど、なかなか手が出ない。

きじま

俺、仕事でアシスタントさんに声を荒げることってほとんどないんだけど、一度だけ「ラウデミオ」(※イタリア・トスカーナの高級オリーブオイル)をコンフィに使ってるのを見たときは「コラアァァァァァァ!」って声が出た。

全員

(爆笑)

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きじまさんが思わず叫んでしまったという「ラウデミオ」

白央

さて、基本的な調味料についていろいろ教えてもらいましたが、料理研究家の重信さんときじまさん、おふたりとも全般的にとてもベーシックな、一般的におなじみのブランドを愛用されてるのが印象的でした。

重信

塩でも醤油でも油でも、高級なものを普段から使う料理研究家さんもいらっしゃるけど、私はごく普通のものを選んでいる。それはレシピにしたときに、ブレなく多くの人が作れるように、という意味もあります。もちろん、それぞれ「じゅうぶんおいしい」と思っているからでもありますけど。

きじま

俺もまったく一緒でね。祖母(料理研究家・村上昭子)の代からの家訓で「調味料はそれぞれ、一番売れてるメーカーの一番売れてるものを使う」というのがあって。その方が、レシピの再現性が高くなるから。

久保木

初江さんがおっしゃるように、基本調味料はごく一般的なもので「じゅうぶんおいしい」んだよね。時々ちょっと高いものを使ってみることもあるけど、私はそんなに味の差が分からないことも(笑)。ただ、良い素材を厳選されて作られているとか、こだわりのあるメーカーさんも大事にしていきたい。

こだわりのあれこれ

白央

ここまでは基本的な調味料についてでしたが、これからはマニアック部門で。持っていて楽しい調味料っていろいろあると思うのですが、みなさんどうでしょうか。

きじま

俺からいきます。自宅が池袋から近いんですけど中国食材店が多くてね。いろいろ持ってきました。

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きじまりゅうたさん愛用の調味料あれこれ。右から中国のたまり醤油「老抽王」、中国のラー油「朝天花椒醤」、ピリ辛オイル的な「麻椒辣油」、そしてイタリア・トスカーナのオリーブオイル「ラウデミオ」。

きじま

やっぱり中国の調味料で中国料理を作ると、圧倒的においしいんですよ。麻椒辣油は炒めものにちょろっと加えるだけでも劇的に「店の味」になる。老抽王はチャーハンを作るときにもいいし。手軽に本格的な味になって、どれも安い。みんな300円前後だったかな。

久保木

朝天花椒醤、たまごかけごはんにちょっとかけてもおいしそう。

きじま

いいね!冷奴にかけてもおいしいし、醤油と一緒にゆで野菜にかけたりもしてる。

重信

どれも使い切りやすい容量なのもいいね。

きじま

さっきも話に出たオリーブオイルのラウデミオは、焼き野菜にちょっとかけることが多いかな。オリーブの青々しい風味が濃厚で、香りがいい。

白央

たとえばどんな野菜に合いますか?

きじま

なんでもいいけど、パプリカ、カリフラワー、ズッキーニ、ナスとかね。白菜とかくったくたに蒸し焼きにしてかけると、うまいっすよ!そこにぱらりと塩。この時の塩は、俺は日本海系の塩、佐渡や能登の塩をかけるのが好きです。

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久保木薫さん愛用の仙葉善治商店「塩魚汁(しょっつる)」(右)と、銀座三河屋「煎酒」

久保木

煎酒(いりざけ)が好きなんです。かつお節と酒と梅干しを煮だしたものなんですけど、オリーブオイルと組み合わせると、すごくおいしいの。それだけでとてもいいドレッシングになります。ゆで野菜にかけるのもいいし、カルパッチョに少々ふっても。みんな、ぜひやってみて。

白央

ゆで野菜や焼き野菜にかけるの、今回すごくよく出るなあ。

重信

調味料の味がはっきりと分かるからね。

久保木

私がよくやるのは、万願寺唐辛子をグリルで焼いて、煎酒ふって、オリーブオイル少々かけて、おかかをパラッと。これがおいしいんですよ。

きじま

醤油が誕生する前は、煎酒がよく使われてたって聞くよね。それこそ何にでも使っていたらしい。

白央

お刺身もこれにつけていたらしいですね。そして秋田県でおなじみのしょっつる、久保木さんお好きなんだ。

久保木

ハタハタという魚が主原料になるしょっつる、いわゆるナンプラーなどの魚醤(ぎょうしょう)の一種ですね。もともと魚醤が好きで。これはさほどクセがなくてマイルドで、使いやすいんです。

白央

秋田だと鍋つゆのベースにすることが多いけど、どう使ってます?

久保木

よくやるのは野菜をオイル蒸しにして、しょっつるをちょっとかける。あるイタリアンレストランで、似たようなのを出していたんです。そこではコラトゥーラ(イタリアの魚醤)をかけていて。それがすごくおいしかったから真似てみました。

きじま

うまそうだなあ。

久保木

あとね、しょっつるとバターの組み合わせがすごくおいしい。塩水につけておいた鶏肉をじーーっくり焼いて、しょっつる少々をかけて、バターをのせる。

全員

わーー、食べてみたい! 

久保木

もうね、最高なんですよ。

重信

魚醤っていったらナンプラーばっかり使っちゃうなあ。

久保木

しょっつるはナンプラーよりもクセがないし、香りがやさしい。だから使いやすいと思います。煮ものの味つけにも使っているよ。ポテトフライにちょっとふって、バターをのっけるなんてのもいいの。

重信

私はナンプラー、煮びたしに使います。水にナンプラー少々入れて、みりんをちょいと入れて。そこに水菜と油揚げなんかを入れるだけでもう完成。

白央

やってみたくなる!

重信

すぐにできるよ。ナンプラーもしょっつるも、「醤油+だし」的に、1本で成立するのが手軽でいいよね。そういう白央さんは何を持ってきたの。

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白央篤司愛用 イズライフの「グリーンレモンオリーブオイル」(右)、エスビー食品「四川風辣油」

白央

まずは、ちょいかけ用のオリーブオイル。

久保木

これ、すごくおいしいよね。自然な香りで。

重信

私も好き好き。サラダなんかに使う。

白央

青いレモンの香りがあざやかで、これと塩だけでかなりのごちそうになります。カプレーゼにおすすめ。豆腐でもいいし、白身のお刺身でも。

きじま

おおー、知らなかった。使ってみよう。

白央

あとやっぱり「買いやすくて、値段が手頃」ラインも大事だなと思って持ってきたのが、エスビー食品の四川風辣油です。花椒入りで、担々麵や麻婆豆腐に大活躍。100均でもよく見かけますよ。

重信

私もこれ使ってる。

白央

注ぎやすい設計になってて、使いたい分だけ出せるのもいい。蒸し鶏とキュウリとか、蒸し鶏と豆腐とかにかけて、醤油ちょいでおいしい一品になります。 さて、大トリで重信さん、お願いします。

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重信初江さん愛用の調味料。右2つがマイユの「ディジョンマスタード」、マヤ・ゴールド「アガベシロップ」、John’s Office「ラブパク」

白央

お、フランスの調味料メーカー、マイユのマスタードですね。日本のスーパーでもおなじみ。

重信

粒マスタードを持ってる人は多いけど、ディジョンマスタードを持ってる人は少ないと思うんですよ。フレンチドレッシングを作るとき、油とお酢、塩こしょうだけでも作れるけど、そこにディジョンマスタードを入れるとね、本当に違う。そのままだったらソーセージにつけてもいいし、シュウマイにつけてもいい。脂っこさを引き締める効果があるので、クリーム煮に添えるのもおすすめ。

白央

陶器にコルクのボトルは?

重信

フランスに行ったら、マイユの本店に必ず行くんです。これを持っていくと、生ビールサーバーみたいなのからマスタードを詰めてくれる。それが本ッ当にお・い・し・い。早くまた行きたいなあ……。

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久保木

アガベシロップはさっき砂糖のときに教えてくれたものですよね。ラブパクは評判を聞いて買ってみたんだけど、いまいち使い方が分からなくて、まだ未開封……。

重信

エスニックな味わいの炒めものを作りたいとき、これで炒めると簡単にできます。パクチーが入っているわけじゃなくて、「パクチーを使うような料理に合う」調味料。私はタイ料理っぽい味つけが好きなんだけど、辛いのは苦手なんです。でもこれはあんまり辛くないのもいい。

白央

ラブパクを鍋に適量入れて豆乳で溶いてスープにするの、いいですよね。麵を入れればもうアジアンヌードル。

重信

キノコとか鶏とか、好きな具入れてね。私はそれ、牛乳でやってる。塩気を足したいときはそこにナンプラーか、それこそしょっつるなんか入れて。レタスをたっぷり入れて鍋つゆにするのもおすすめです。

きじま

知らない調味料に出会うと、なんか料理したくなってくるね!


座談会実施にあたり、Twitterではハッシュタグ「#アイスム調味料座談会」でたくさんのご意見やコメントをいただきました。ありがとうございました!この記事の感想もぜひハッシュタグをつけてツイートしてくださいね!

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取材・文:白央篤司
撮影:猪原悠(TRON)

アイスム座談会