トマトの目玉焼き
芸人ボルサリーノ関好江さんに料理を作ってもらいながら、おいしさのポイントなどを伺う本連載。今回のレシピは「トマトの目玉焼き」。関さんが名古屋よしもとに所属していたころ、行きつけだった居酒屋の思い出のメニューなのだそう。材料はものすごくシンプルで工程も簡単!だけど、トマトの旨味を筆頭としたおいしさのシャワーを、目が覚めるくらいたっぷり感じられます。小さなフライパンやスキレットで作って、そのままテーブルに出すのがポイントです。
材料(2人前)
作り方
- 1. トマトを食べやすい大きさに切る。
- 2. 小さいフライパンやスキレットにごま油を入れ、1を加えて軽く火をとおす。
- 3. トマトをフチに寄せて真ん中をあけ、卵を落としてふたをする。
- 4. 黄身がうっすら白くなったら、揚げ玉を散らしてめんつゆをまわしがけ、お好みでブラックペッパー、かつおぶし、小口ねぎを散らし、そのままテーブルへ。
思い出の詰まった居酒屋のメニュー
今回紹介するのは、関さんが名古屋よしもとに在籍していたころ、行きつけだった居酒屋さんの思い出のメニューを、記憶をたよりに再現したレシピ。
「親父さんとおかみさんがとてもよくしてくれるお店だったんです。劇場のすぐ近くにあって、顔を出すと、誰かしら芸人仲間がいて」と関さん。
「適当な食材でさささっと料理を作って出してくれては、『はい!1000円!』『今日はビールたくさん飲んでたから2000円ね』なんていうざっくりとしたお会計で、いっぱい食べさせてくれました。
もらった野菜を持っていくと、『あとで料理して食べさせてあげるよ』って用意してくれていたり、劇場で打ち上げがあるときには、料理を運んできてくれたり。
そのころはみんな若かったから、死ぬほどケンカとかもしていて、店内でヒートアップしてしまうこともあったんですけど、そんなときは、親父さんやおかみさんに『まあまあまあ』とたしなめられたりしていました。
お店がひまだと、『今日はもう店じまいしてカラオケに行こう!』って、一緒にカラオケに行くこともありました。おかみさん、いつもひばりちゃん(美空ひばり)を歌っていたな。
風の噂によると、お店はもうなくなってしまったそうなんですけどね。行きつけのお店ってなかなか作れなくて、東京に来てからはまだ見つけられていません。」
簡単に出来るけどすごいやつ
そんな思い出の居酒屋のメニューは、ささっと作れるところも大きな魅力。まずはトマトをお好みの大きさにカットします。
小さなフライパンもしくはスキレットを用意して、火にかけごま油を入れたら……
トマトを入れ、炒めます。
「炒め具合はお好みで!フライパンの余熱で火が通るので、そこまでがっつり火を通さなくても大丈夫です。」
トマトをフチに移動させ、真ん中をあけたら、そこに卵を落とします。
早速よい眺め。まだ完成していないのに、赤と黄色のコントラストが食欲をそそります。
「卵の火の通り具合もお好みで。好きな固さで作ってもらえたらと思います。」
卵を入れたらふたをして、しばし見守り……
「いいねいいねがんばれ!いい感じ。」
卵を応援する関さん
黄身がうっすら白くなってきたところで、ふたを開け……
にっこり。よい塩梅に火が通りました。
ここからは仕上げのターンです。揚げ玉をぱさっと散らし……
めんつゆを回しがけ、ブラックペッパー、かつおぶし、小口ねぎを散らしていきます。
完成しました。ここまでの時間、10分弱。なんとも早い!
「もっと簡単に作る方法もあるんですよ。ミニトマトを切らずにざーっと並べて作ったら、包丁を使わなくてもあっという間にできるんです」と関さん。
「めちゃくちゃアレンジが効くレシピでもあります。調味料はなんでも合うと思う!山椒や七味を散らしてもいいし、ソースやマヨネーズ、紅しょうがを加えて、お好み焼き風にしてもいいし。」
ところで関さん、おすすめの小さなフライパン(スキレット)ってありますか……?
「……何にも!特にこだわりがなくて、いただいたものを使っている感じなんです。されるがままといいいますか、自分で買ったものをあまり持っていなくて。やった!もらった!使お〜!って使ってます(笑)。明日も、もらいものの鍋が届く予定なんですよ。」
なんと。猛烈なまでの引き寄せパワーを持っている!
ちなみに筆者は、この撮影のあとスキレットを購入し、その便利さにうち震えました。
調理用具と食器、2つの役割がひとつに集約されている利便性。置くだけでテーブルが華やぐうえ、蓄熱性があるので、あたたかいまま食べられる。ちょっとだけ何かを炒めたいときにも便利だし、1000〜2000円で、そこそこのものが購入できる……という。
よい買い物したぞ!という気持ちでにこにこしています。
あらゆる食体験が詰まってる
さて。フライパンのままテーブルに運び、いざ実食です。
「おおおおお……」「わあああ」
スッと黄身にスプーンを差し込む瞬間に、例えではなく、言葉の通り完全に語彙を消失し、謎の叫び声を発していました。半熟卵は存在そのものがエンタメ。食べる前からもう、楽しい。
……と、既にだいぶ気持ちが高まってしまいましたが、食べたらもっとすごかったです。
卵のトロッとした食感とトマトの旨味が口いっぱいに広がったかと思えば、畳み掛けるようにかつおぶしの旨味が押し寄せてきて、もうそれだけで十分なのに、あらゆる旨味を吸い込んだふわふわの揚げ玉がとどめをさしてくる……という。
「揚げ玉、いい仕事してますよね。ちなみに揚げ玉は、親子丼を作るときにも使えるんですよ。ちょっとお肉が足りないかなってときに加えると、満足度が上がるんです」と関さん。
食べ終わりごろにピリッと効いてくるブラックペッパーもたまりません。一皿のなかに、たくさんの食体験が詰まっている……!
例えるなら、おじいちゃんに「牛乳買ってきて」とおつかいを頼まれて、近所のスーパーに行ったら、店員さんから「おまけだよ」とマドレーヌと煎餅を渡され、家に帰ったらおじいちゃんから「おだちんだよ」って飴玉とカリカリ梅とサイダーと1000円札を渡されて、えっ、うれしいけど、こんなにたくさんいいの……?って動揺しているような気持ち。
心が叫んでしまう。この簡単さでこれだけの対価を得てしまっていいのですか!と。
「このメニューを編み出した、おかみさんがすごいと思うんです」と関さん。
いやいやいや。記憶だけをたよりに再現した関さんもすごいです。料理に精通した人ならではの手腕。思い出の味を蘇らせられるって、素敵なことだと思うのです。
ちなみに筆者は、この日以来すっかりこのレシピにはまり、家にトマトと卵を常備しておくようになりました。難点があるとすれば、うっかりをごはんをおかわりしてしまい、食べすぎてしまうことでしょうか。すっごく、すっごくごはんに合うんです。
お店はもうなくとも、思い出の味に会うことはできる。ぜひみなさんの自宅でも再現してみてほしいです。