きじまりゅうたさんのレシピ「あじの開きのアクアパッツァ」を作る

リュウジのレシピトレード #5 前編

PEOPLE
2021.06.17

料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、MCをつとめるテレビ番組を持つなど、多方面で活躍する料理研究家のきじまりゅうたさん。リュウジさんが選んだ、きじまさんのレシピは「あじの開きのアクアパッツァ」。きじまさん初の料理本の表紙を飾った思い出のレシピです。

この日が初対面だったふたりですが、お互いの料理を作り合い、味わい、語らっているうちにあっというまに意気投合。「根っこの部分の思いは一緒」というふたりの語らいと料理をどうぞお楽しみください。(※撮影は4月上旬に行いました。)

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あじの開きのアクアパッツァ

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材料(2人分)

  • あじの⼲物 (⼤)…1枚(100〜120g)
  • あさり(砂抜き)…200g
  • にんにく…1かけ
  • ミニトマト…10個(80g)
  • お好みでバゲット…適量
  • ⽔…150mL
  • 粗びき⿊こしょう…少々
  • 塩…適宜
  • オリーブオイル…⼤さじ1(炒める用)+⼤さじ1(仕上げ用)

作り⽅

1. あさりは洗い、ザルに上げ、⽔気を切る。
2. ミニトマトはヘタをとる。にんにくは⽪ごとつぶし、根元と芯を除く。
3. フライパンにオリーブオイル⼤さじ1とにんにくを⼊れ、⽔気をふいたあじの⽪⽬を下にして並べて⽕にかける。3分ほどしてあじに焼き⾊がついたら裏返す。
4. 3のフライパンにあさり、ミニトマト、⽔150mLを加え、時々ゆすりながら煮る。
5. あさりの⼝が開き、トマトがはぜてきたら、フライパンをゆすりながらオリーブオイル⼤さじ1を加え、ゆるいとろみがつくまで1分ほど煮る。
6. 味⾒して、必要であれば塩(少々)を加えて味をととのえ、粗びき⿊こしょうをふる。
7. お好みでバゲットを添えていただく。

はじめての本の表紙にもなった思い出深い料理

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きじま

昨晩リュウジさんの夢を見たんです。お酒が好きだと伺ったので、今日は赤ワインを持ってきました。

リュウジ

ありがとうございます!……きじまさんのエプロンいいですね。

きじま

これね、背中がクロスになっていて長時間つけていても楽ちんなんです。リュウジさんのエプロンはオリジナルですか?

リュウジ

はい。「バズレシピ」って書いてあります。

きじま

手元を撮影しているときに、写るところ!さすがです。今日はよろしくお願いします。

リュウジ

よろしくお願いします。全部きじまさんに教えてもらいたいので、あえて予習しないで来ました。

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きじま

ふだんアクアパッツァは作りますか?

リュウジ

はい。好きでよく作るんですが、干物で作る発想はなかったです。

きじま

丸ごと一匹の魚って、おいしいんですけど、普段料理しない人にとっては扱いづらい食材だと思うんです。でも干物だったら、一身の魅力もありつつ、手軽さもありつつ、干してあるから旨味も濃い!

このレシピは14年くらい前、料理研究家として独立したてのころ、はじめて本を出させてもらうときに、捻り出したレシピなんです。

リュウジ

というと、かなり歴史のある……

きじま

はい!はじめての本の表紙にもなった思い出深い料理です。僕にとっての必殺技です。

リュウジ

そうなんですね!

魚が捌けなくても作れる!

きじま

まずはどうしましょう。にんにくからいきますか?

リュウジ

いきましょう。

きじま

つぶして、芯だけとっちゃってください。刻んだりせず、ゴロッとしたままで使います。

リュウジ

はい!(ダンッ!と勢いよくにんにくをつぶす)

きじま

(その様子をみながら)自分のレシピをプロに作ってもらう企画に参加するのは、初めての経験です。料理研究家同士だと、「これは、こういう意味ですか?」というようなツッコミも鋭くておもしろそうですね。

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リュウジ

そういうのが僕、すごく好きなんです。

きじま

次はプチトマトのへたを取りましょう。

リュウジ

はい!トマトは切りますか?

きじま

切らないでいこうかなと思います。このヘタをとったところから、はぜてくるんです。トマトの味をしっかり出したい時は、僕は焼いてつぶしちゃう。

リュウジ

僕、いつも半分に切っていました。切らないままで食べてみたいです。

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きじま

あさりはもう砂抜きしてあるので、下処理はこれで終わりです。せっかく自前の包丁持ってきたんですけど、にんにくをつぶしただけでしたね。

リュウジ

や、でもそこがいいんだと思います!お魚を捌けなくても作れますよね。すばらしい。

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先生というより近所のあんちゃん的存在に

きじま

フライパンを火にかける前に、オリーブオイル大さじ1杯とにんにくを入れて、あじの干物も皮目を下にして入れちゃってください。香りを出しつつ、同時にあじの皮目を焼く作業をしていきます。

リュウジ

冷たい状態のフライパンに入れるんですね。

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きじま

はい。熱してから入れると、魚って油がはねるんですよね。

リュウジ

たしかに!水分が出ますよね。

きじま

料理初心者の方から、「熱くなっているところに手を入れるのが怖い」という話を聞いたんです。だったら、火をつける前に入れちゃえば怖くないし、熱が徐々に上がっていくから、あまりパチパチ油がはねない。なので、このレシピに関しては、コールドスタートにしています。

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リュウジ

そのあたりの配慮がかなりすばらしいです。

きじま

リュウジさんは、どんな方に向けてレシピを作っているんですか。

リュウジ

僕は……そうですね、どちらかというと料理が好きじゃない人に向けて作っています。僕自身は料理が大好きで、手の込んだ料理を作るのも好きなので、どの工程を手間だと感じるのかを想像するのが、難しいと感じています。

きじま

好きでやってますからね、我々は。本当の意味では、料理が好きじゃない、できないと感じている人の感覚は、わからないじゃないですか。

リュウジ

本当の意味では、わからないですね。

きじま

そのなかでリュウジさんは、「こういう工程があったら、めんどくさいと感じるだろうか」「難しいと感じるんだろうか」と想像しながらレシピを作っていらっしゃる感じがします。それがすごい。

リュウジ

ありがとうございます。

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きじま

料理の工程以外でも、何か気にしているところとかありますか?ご自身の見せ方とか。

リュウジ

そうですね、料理研究家の先生というよりも、近所のあんちゃん的な存在でいたいといいますか……

きじま

おお!僕もです。まさにそこから始まりました。

昔、料理人3人でテレビに出ると決まった時、他の人はシェフの格好だったんですけど、僕には決まったユニフォームがなくて。それでいつも通りのキャップを被って髭面で出てみたんですが、その時これだなぁと思ったんです。「先生」ではなく、「あんちゃん」でいたいなぁと。

ハードルを下げるといいますか。

リュウジ

ハードルを下げるって大切な気がしています。それで僕も「料理のお兄さん」って名乗ってます。

きじま

ちなみに「お兄さん」は今おいくつなんですか?

リュウジ

35歳です。もう「お兄さん」ではない(笑)。

きじま

わはははは!僕、今年40なんですけど、50歳くらいまでは「お兄さん」でいようと思っていますよ。大丈夫!料理業界では50代もまだまだ若手です。

ワインは入れない

きじま

あじをひっくり返しましょうか。そうしたら、あさりとトマトを、あじを囲むように入れていきます。

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リュウジ

わー!これはかなり旨味が出るんじゃないかと思います。

きじま

具材を入れ終わったら、水を入れちゃってください。

リュウジ

ワインではなく、お水なんですね!

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きじま

はい。ワインを入れると酸味が出ちゃうこともあるので。

リュウジ

ワインによって酸味の具合が違いますよね。

きじま

そうなんです。お酒を入れたい場合には、日本酒を入れるといいです。

リュウジ

日本酒!なるほど!

……すごくいい香りがしていますね。

きじま

あじの干物は、身が薄くて水分が抜けているので、焼き上がるの早いんです。あさりの口が開いてきて、トマトがやわらかくなってきたら出来上がりです。

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リュウジ

あっという間ですね。合理的!

きじま

あさりが開くのに比べてトマトが煮えるのが遅いので、少しやわらかくなってきたら、上から少しつぶしちゃっても良いです。

ここで味見してみてください。塩を加えなくても、もう十分味があるかもしれない。

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リュウジ

(味見して)あっ!かなりいい感じです。

きじま

じゃあ塩は入れずにこのままで!仕上げに、風味づけのオリーブオイルと粗挽き黒こしょうを入れましょうか。

スタッフ

こしょうのミルが電動になっています。

リュウジ

おおっ……!光っている!

きじま

すごいっすね!

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リュウジ

(こしょうを振り終わって)めちゃめちゃうまそう!

どれだけ引き算をして、おいしく作れるかの葛藤

きじま

(フォークとスプーンを器用に使って料理を取り分けるリュウジさんをみながら)僕それ絶対できないよ。

リュウジ

ホテルマンをやっていた時に習得した技です。

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リュウジ

もてなすことが好きなんです。焼肉屋でもずっと肉を焼いてるんですよ。今、ここでひっくり返すのがいい!みたいなこだわりがあるんで、自分で焼きたいんです。

きじま

わかるわかる。……わお!いただきまーす。

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リュウジ

……これはうまい!味の出方がすごいですね。塩を入れずに、この味が出るってすごい。アクアパッツァ「風」じゃない。めっちゃめちゃアクアパッツァですね。

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きじま

汁も飲んでみて!

リュウジ

(飲む)すごい……!ワインとかお酒入っていなくてこの味になるのすごいな。これ、皆さんも飲んでみてください(スタッフにすすめる)。

スタッフ一同

すごい……おいしい……(ざわつく)。

リュウジ

パンに浸してもうまいし、きっとこれはパスタ絡めても最高にうまい!

きじま

リゾットにしてもうまいです。

リュウジ

おいしいのはもちろんなんですけど、合理的なところが本当にすごいと思います。手間をかければおいしいものって作れてしまうんです。料理を生業にしていればなおさら。アクアパッツァひとつ作るにしても、いい魚を仕入れて捌けば、うまいのが作れちゃうんですよ。

おいしくするために、工程を難しくすることはすぐにできます。たとえばケッパーを入れて複雑な味わいを出すとか。だけど、ケッパーは気軽に手に入るものではないですし……。

だから、合理的においしく作る方法を考えるのが一番難しいと思うんです。いかに引き算できるかどうかが、料理研究家にとって大切だと思っています。

きじま

一緒だ!……なんだよ!生き別れの兄弟かよ(笑)。

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リュウジ

このアクアパッツァにも、いろんな試行錯誤があったんじゃないかと想像します。簡単に作れる料理だからといって、レシピを作るのもラクというわけではないはずで。

簡単に作ることができるようにするために、あらゆる可能性を考えて、ここに行き着いたんだろうと思うんです。

きじま

そうなのよ、そうなのよ。もう。うれしいね〜。

レシピを削って簡単にするのは、やろうと思えばできるんだけど、僕にとっては、踏み絵を踏むことでもあるんです。自分が大事にしているものは、本当は削りたくない。でも削らないと、作りやすくならない。葛藤しながら作ってます。

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リュウジ

僕も、もともとは手の込んだ料理を作るのが好きだったので、初期のころはかなり葛藤がありました。

きじま

バランスが難しいですよね。

リュウジ

難しいです。今は、気軽に作れる料理をやりながら、たまに「ちょっと工程が多いけれど、すごくおいしく作れるから、こういうのもどうですか〜?」と提示するのが、僕のなかでは一番バランスが取れていると感じます。

きじま

大事にしている部分が一緒ですね。作る料理や活動の仕方は違うけど、根っこの部分が一緒。すごくうれしいです。

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後編はこちら

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取材・文:ネッシーあやこ
撮影:猪原悠(TRON)

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