きじまりゅうたさんのレシピ「あじの開きのアクアパッツァ」を作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、MCをつとめるテレビ番組を持つなど、多方面で活躍する料理研究家のきじまりゅうたさん。リュウジさんが選んだ、きじまさんのレシピは「あじの開きのアクアパッツァ」。きじまさん初の料理本の表紙を飾った思い出のレシピです。
この日が初対面だったふたりですが、お互いの料理を作り合い、味わい、語らっているうちにあっというまに意気投合。「根っこの部分の思いは一緒」というふたりの語らいと料理をどうぞお楽しみください。(※撮影は4月上旬に行いました。)
あじの開きのアクアパッツァ
材料(2人分)
作り⽅
- 1. あさりは洗い、ザルに上げ、⽔気を切る。
- 2. ミニトマトはヘタをとる。にんにくは⽪ごとつぶし、根元と芯を除く。
- 3. フライパンにオリーブオイル⼤さじ1とにんにくを⼊れ、⽔気をふいたあじの⽪⽬を下にして並べて⽕にかける。3分ほどしてあじに焼き⾊がついたら裏返す。
- 4. 3のフライパンにあさり、ミニトマト、⽔150mLを加え、時々ゆすりながら煮る。
- 5. あさりの⼝が開き、トマトがはぜてきたら、フライパンをゆすりながらオリーブオイル⼤さじ1を加え、ゆるいとろみがつくまで1分ほど煮る。
- 6. 味⾒して、必要であれば塩(少々)を加えて味をととのえ、粗びき⿊こしょうをふる。
- 7. お好みでバゲットを添えていただく。
はじめての本の表紙にもなった思い出深い料理
昨晩リュウジさんの夢を見たんです。お酒が好きだと伺ったので、今日は赤ワインを持ってきました。
ありがとうございます!……きじまさんのエプロンいいですね。
これね、背中がクロスになっていて長時間つけていても楽ちんなんです。リュウジさんのエプロンはオリジナルですか?
はい。「バズレシピ」って書いてあります。
手元を撮影しているときに、写るところ!さすがです。今日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。全部きじまさんに教えてもらいたいので、あえて予習しないで来ました。
ふだんアクアパッツァは作りますか?
はい。好きでよく作るんですが、干物で作る発想はなかったです。
丸ごと一匹の魚って、おいしいんですけど、普段料理しない人にとっては扱いづらい食材だと思うんです。でも干物だったら、一身の魅力もありつつ、手軽さもありつつ、干してあるから旨味も濃い!
このレシピは14年くらい前、料理研究家として独立したてのころ、はじめて本を出させてもらうときに、捻り出したレシピなんです。
というと、かなり歴史のある……
はい!はじめての本の表紙にもなった思い出深い料理です。僕にとっての必殺技です。
そうなんですね!
魚が捌けなくても作れる!
まずはどうしましょう。にんにくからいきますか?
いきましょう。
つぶして、芯だけとっちゃってください。刻んだりせず、ゴロッとしたままで使います。
はい!(ダンッ!と勢いよくにんにくをつぶす)
(その様子をみながら)自分のレシピをプロに作ってもらう企画に参加するのは、初めての経験です。料理研究家同士だと、「これは、こういう意味ですか?」というようなツッコミも鋭くておもしろそうですね。
そういうのが僕、すごく好きなんです。
次はプチトマトのへたを取りましょう。
はい!トマトは切りますか?
切らないでいこうかなと思います。このヘタをとったところから、はぜてくるんです。トマトの味をしっかり出したい時は、僕は焼いてつぶしちゃう。
僕、いつも半分に切っていました。切らないままで食べてみたいです。
あさりはもう砂抜きしてあるので、下処理はこれで終わりです。せっかく自前の包丁持ってきたんですけど、にんにくをつぶしただけでしたね。
や、でもそこがいいんだと思います!お魚を捌けなくても作れますよね。すばらしい。
先生というより近所のあんちゃん的存在に
フライパンを火にかける前に、オリーブオイル大さじ1杯とにんにくを入れて、あじの干物も皮目を下にして入れちゃってください。香りを出しつつ、同時にあじの皮目を焼く作業をしていきます。
冷たい状態のフライパンに入れるんですね。
はい。熱してから入れると、魚って油がはねるんですよね。
たしかに!水分が出ますよね。
料理初心者の方から、「熱くなっているところに手を入れるのが怖い」という話を聞いたんです。だったら、火をつける前に入れちゃえば怖くないし、熱が徐々に上がっていくから、あまりパチパチ油がはねない。なので、このレシピに関しては、コールドスタートにしています。
そのあたりの配慮がかなりすばらしいです。
リュウジさんは、どんな方に向けてレシピを作っているんですか。
僕は……そうですね、どちらかというと料理が好きじゃない人に向けて作っています。僕自身は料理が大好きで、手の込んだ料理を作るのも好きなので、どの工程を手間だと感じるのかを想像するのが、難しいと感じています。
好きでやってますからね、我々は。本当の意味では、料理が好きじゃない、できないと感じている人の感覚は、わからないじゃないですか。
本当の意味では、わからないですね。
そのなかでリュウジさんは、「こういう工程があったら、めんどくさいと感じるだろうか」「難しいと感じるんだろうか」と想像しながらレシピを作っていらっしゃる感じがします。それがすごい。
ありがとうございます。
料理の工程以外でも、何か気にしているところとかありますか?ご自身の見せ方とか。
そうですね、料理研究家の先生というよりも、近所のあんちゃん的な存在でいたいといいますか……
おお!僕もです。まさにそこから始まりました。
昔、料理人3人でテレビに出ると決まった時、他の人はシェフの格好だったんですけど、僕には決まったユニフォームがなくて。それでいつも通りのキャップを被って髭面で出てみたんですが、その時これだなぁと思ったんです。「先生」ではなく、「あんちゃん」でいたいなぁと。
ハードルを下げるといいますか。
ハードルを下げるって大切な気がしています。それで僕も「料理のお兄さん」って名乗ってます。
ちなみに「お兄さん」は今おいくつなんですか?
35歳です。もう「お兄さん」ではない(笑)。
わはははは!僕、今年40なんですけど、50歳くらいまでは「お兄さん」でいようと思っていますよ。大丈夫!料理業界では50代もまだまだ若手です。
ワインは入れない
あじをひっくり返しましょうか。そうしたら、あさりとトマトを、あじを囲むように入れていきます。
わー!これはかなり旨味が出るんじゃないかと思います。
具材を入れ終わったら、水を入れちゃってください。
ワインではなく、お水なんですね!
はい。ワインを入れると酸味が出ちゃうこともあるので。
ワインによって酸味の具合が違いますよね。
そうなんです。お酒を入れたい場合には、日本酒を入れるといいです。
日本酒!なるほど!
……すごくいい香りがしていますね。
あじの干物は、身が薄くて水分が抜けているので、焼き上がるの早いんです。あさりの口が開いてきて、トマトがやわらかくなってきたら出来上がりです。
あっという間ですね。合理的!
あさりが開くのに比べてトマトが煮えるのが遅いので、少しやわらかくなってきたら、上から少しつぶしちゃっても良いです。
ここで味見してみてください。塩を加えなくても、もう十分味があるかもしれない。
(味見して)あっ!かなりいい感じです。
じゃあ塩は入れずにこのままで!仕上げに、風味づけのオリーブオイルと粗挽き黒こしょうを入れましょうか。
こしょうのミルが電動になっています。
おおっ……!光っている!
すごいっすね!
(こしょうを振り終わって)めちゃめちゃうまそう!
どれだけ引き算をして、おいしく作れるかの葛藤
(フォークとスプーンを器用に使って料理を取り分けるリュウジさんをみながら)僕それ絶対できないよ。
ホテルマンをやっていた時に習得した技です。
もてなすことが好きなんです。焼肉屋でもずっと肉を焼いてるんですよ。今、ここでひっくり返すのがいい!みたいなこだわりがあるんで、自分で焼きたいんです。
わかるわかる。……わお!いただきまーす。
……これはうまい!味の出方がすごいですね。塩を入れずに、この味が出るってすごい。アクアパッツァ「風」じゃない。めっちゃめちゃアクアパッツァですね。
汁も飲んでみて!
(飲む)すごい……!ワインとかお酒入っていなくてこの味になるのすごいな。これ、皆さんも飲んでみてください(スタッフにすすめる)。
すごい……おいしい……(ざわつく)。
パンに浸してもうまいし、きっとこれはパスタ絡めても最高にうまい!
リゾットにしてもうまいです。
おいしいのはもちろんなんですけど、合理的なところが本当にすごいと思います。手間をかければおいしいものって作れてしまうんです。料理を生業にしていればなおさら。アクアパッツァひとつ作るにしても、いい魚を仕入れて捌けば、うまいのが作れちゃうんですよ。
おいしくするために、工程を難しくすることはすぐにできます。たとえばケッパーを入れて複雑な味わいを出すとか。だけど、ケッパーは気軽に手に入るものではないですし……。
だから、合理的においしく作る方法を考えるのが一番難しいと思うんです。いかに引き算できるかどうかが、料理研究家にとって大切だと思っています。
一緒だ!……なんだよ!生き別れの兄弟かよ(笑)。
このアクアパッツァにも、いろんな試行錯誤があったんじゃないかと想像します。簡単に作れる料理だからといって、レシピを作るのもラクというわけではないはずで。
簡単に作ることができるようにするために、あらゆる可能性を考えて、ここに行き着いたんだろうと思うんです。
そうなのよ、そうなのよ。もう。うれしいね〜。
レシピを削って簡単にするのは、やろうと思えばできるんだけど、僕にとっては、踏み絵を踏むことでもあるんです。自分が大事にしているものは、本当は削りたくない。でも削らないと、作りやすくならない。葛藤しながら作ってます。
僕も、もともとは手の込んだ料理を作るのが好きだったので、初期のころはかなり葛藤がありました。
バランスが難しいですよね。
難しいです。今は、気軽に作れる料理をやりながら、たまに「ちょっと工程が多いけれど、すごくおいしく作れるから、こういうのもどうですか〜?」と提示するのが、僕のなかでは一番バランスが取れていると感じます。
大事にしている部分が一緒ですね。作る料理や活動の仕方は違うけど、根っこの部分が一緒。すごくうれしいです。