大西哲也さんのレシピ「唐揚げ」を作る
料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、主に飲食店経営とYouTubeで活動を行う、クッキングエンターテイナーの大西哲也さん。二人は、お互いのYouTubeチャンネルに出演しあうなど、これまでにも料理を通した交流を続けてきました。
今回、リュウジさんが選んだ大西さんのレシピは、最小限の調味料で楽しめる「唐揚げ」。その工程は、隅から隅までおいしく仕上げるための創意工夫にあふれていました。大西さんの、超具体的なレクチャーとともにお送りします。
プロが教えるお店の唐揚げ
材料(2〜3⼈分)
作り⽅
- 1. 鶏⾁をテンダーライズする。なければフォークを使って全体に穴を空ける。
- 2. 鶏⾁を50g程度になるよう少し⼤きめに切る。(300gなら6等分くらい)
- 3. 塩、こしょう、酒を加え、ねばっとするまで揉む。溶き卵を加え、⾁に吸われるまで軽く揉む。そこに⽚栗粉を少々加えて揉み、サラダ油を加えてさらに揉む。
- 4. 片栗粉:小麦粉(4:1)で⾐を作る。
- 5. 3に4の⾐をつけたら160度の油で3分半揚げ、⼀旦取り出し、揚げた時と同じだけ休ませる。
- 6. 180度の油で30秒〜1分ほどもう⼀度揚げる。
- ★油淋鶏ソース
- 1. 酢、砂糖、油、ごま油を混ぜる。
- 2. ねぎと⽣姜をみじん切りにし、調味料に加え混ぜる。
工程のひとつひとつに理由がある
僕はわざと何も見ないでここに来ました。鶏もも肉、2枚も使うんですね!
はい。結構いっぱいできちゃう感じです。作り置きしてお弁当などに入れてもいいし、多いと感じる人は半分量で作っても良いと思います。で、まずは鶏もも肉にフォークをざくざくと刺していきます。
テンダーライザー(※)は使わないんですね。
※テンダーライザーとは:大西さんがお肉の調理をする際に使う、お肉を柔らかくするための道具。剣山のような針がたくさんついている。
よくご存知ですね。テンダーライザーは今日は使いません。僕、料理をこじらせているので、道具をどんどん買っちゃうんですけど、人に作ってもらうときの工程にそれを組み込んでしまうと、ハードルを上げてしまうと思いまして。
道具にこだわりたい人が作る用のレシピと、そうじゃない人用のと、両方あるといいですよね。(ぐさぐさとフォークを刺しながら)。
鶏肉に十分にフォークを刺したら、次は切っていきます。ちょっと大きめに切るのがポイントです。
大きめ!
はい。これは、火の入り方と関係しています。唐揚げに限らず、あらゆる料理において、おいしく仕上がらない原因の大多数は、火の入れすぎ、もしくは入らなすぎだと思うんです。鶏肉を大きめに切るのは、二度揚げした際、火が入りすぎないようにするためです。小さすぎると、火が入りすぎてしまうんです。
唐揚げ1個あたり約50gになるように切っていきます。鶏もも肉1枚がだいたい300gなので、まずは3等分して、それぞれ半分にすると良いと思います。
(肉を切りながら)こんな感じですか?……でかいっすね!僕はいつも鶏もも肉1枚を8等分していました。ここまで大ぶりの唐揚げ、あんまり食べたことがないです。
これが、ジューシー唐揚げを作るための大西的ポイントなんです。でもきっちり50gじゃなく、大体で大丈夫です。大きいのや小さいのがあることで、食感のグラデーションが生まれるので。
皮は取り除きますか?
あっ、皮はそのままで大丈夫です!というのも、このあと、衣をまとわせるときに、皮がポイントになるんです。
調味料は塩、こしょう、酒。以上!
次に鶏肉をボウルに入れて、下味をつけていきます。使う調味料は、塩、こしょう、酒だけ。量はそれぞれ「全体にまぶさる程度」です。こしょうはホワイトでもブラックでも構いません。3つとも全部入れたら、揉み込んでいきます。
揉むのが重要なんでしょうか?
はい。しばらく揉み込んでいると、だんだん粘りが出てきます。粘りが出るのは、調味料が肉に浸透して「中に入った」ということなので、そこが重要なんです。
それにしても、調味料が3つだけというのは、めちゃめちゃシンプルですね。僕の唐揚げのレシピは、しょうゆを結構入れています。
僕、北海道出身なんですけど、北海道にはザンギがあるんですね。僕の中では、しっかり味と衣がついているのがザンギ、あまり味がついていないのが唐揚げというイメージなんです。
ザンギと唐揚げは別のものなんですね。僕の唐揚げは、大西さん的にはザンギ寄りかもしれない。
そうですね。北海道人からすると、ザンギ寄りですね。
中華の手法で鶏肉に卵を吸わせる
(肉の様子を見ながら)お、けっこう粘りが出てきました!
いい感じですね。続いて大事なのが、卵を揉み込むことです。
卵入りなんだ!卵を入れるのは中華の唐揚げですね。
そうなんですよ。中華の「漿(チャン)」という手法を使っています。食材をぷりっとさせるために、卵を吸わせるんです。鶏肉やえびは、筋繊維がぎゅうぎゅうに詰まっているようにみえても、実はスポンジみたいになっていて、卵が入っていくんです。そうなることで、保水力が高まって、やわらかくてジューシーな唐揚げになるんです。
(揉み込みながら)あ、全然卵がない。あっという間になくなりますね。おもしろい!
そうなんですよ!初めてやったとき、めちゃめちゃびっくりしました。
ここまでの工程でしっかり味がついたので、あとは、乾燥や味が出るのを防ぐために、片栗粉をひとつまみ位入れて少し混ぜます。サラダ油も小さじ1くらい入れます。
油を入れると、どんな効果があるんですか?
剥がしやすくする、といいますか。片栗粉入れただけだとボテボテしちゃうんですが、油を入れると、乾燥を防げるうえに作業もしやすくなります。
これも中華のやりかた?
そうなんです。僕の料理は、中華の作り方がベースになってるものが多いです。
科学に固執しすぎないようにしたい
この状態でお肉を少し寝かせておいたりはしますか?
寝かせず、このまま次の工程に進んで大丈夫です。にんにくやしょうがを入れるときは、少し漬け込むんですが……
そういえばこの唐揚げには、にんにくとしょうがは入っていないんですね。
はい。それがポイントなんです!まずはこのレシピで作ってみて、必要だと感じたら加えてみるのが良いと思っています。
……油、160度くらいにしておきましょうか。ちなみに温度計ってありますか?
やはり温度は重要ですか?
はい!ただ、前は「料理は温度、料理は科学」と強く言っていたんですけど、最近恥ずかしくなってきて言わなくなりました。
たしかに料理は科学ですよね。
でも、科学に固執しすぎてはいけないと思うようになったんです。というのも、科学だと思いすぎていると、自分が知らない科学に出会ったときに、頓挫してしまうんですよね。なんでできないんだー!って。
例えばどんなことですか?
そうですね。例えば「おいしいお米の炊き方」のレシピがあったとして、水の硬度まで指定されていることは、ほとんどないと思うんです。でも、硬水で炊いたお米と、軟水で炊いたお米では味が違う。水道水の硬度も、住んでいる場所によって違うんです。
土地によって硬度が違うということですか?
はい。例えば千葉県や沖縄県など、水道水の硬度が少し高めの地域もある。東京のなかでも、僕の住んでいる調布と奥多摩では硬度が結構違います。
へー!それはどこで調べるとわかるんですか?
水道局のホームページを見ました。
すごいなそれ!
もしも銀座の名店で修行をして、沖縄で寿司屋を出した場合、修行で教わった方法と同じやり方でシャリを作ったとしても、同じ味にはならないはずなんです。なぜならば、銀座と沖縄では水の硬度が違うから。でもその原因が硬度にあるとは気がつきにくい。
なるほど。
科学に固執しすぎてしまうと科学に溺れる。だから、科学を盲信しすぎずに、おおいなる余裕と自由を持って挑んでいきたいと思っています。僕、うんちくが本当に多いんで。
でもそれが大西さんの良さでもありますよね。うんちくがたくさんある料理、僕は好きです。
皮で身を包んで丸くする
ところで唐揚げの衣、片栗粉なのか小麦粉なのか問題ってありますよね。
ありますね。
片栗粉は、油を吸わないでカリッと仕上がる。小麦粉は、油を吸ってしっとり仕上がる。それぞれ仕上がりが全く異なるので、お好みの具合によって、片栗粉と小麦粉をブレンドするのが大事だと思っていて。僕は、片栗粉4:小麦粉1くらいが好みです。
2種類を混ぜる感じなんですね。
はい。混ぜるときは、適当で大丈夫です。均一に混ぜるなら混ぜるでもいいんですが、混ざっているところがあったりなかったりしてムラがあった方が、味や食感に立体感が生まれて良いと思うんですよね。
なるほど!じゃあざっくり混ぜる感じで……
はい!
どんな食感になるのか楽しみです!ちなみに、粉を厚くつけるか、薄くつけるかにこだわりはありますか?
ないです。ただ、ある程度粉をつけたあと、皮で身を包んで欲しいんです。なぜ包むかというと、唐揚げの形を丸くしたいんですね。
丸くする!
そうしないと、箇所によって火が入る量が変わっちゃうんです。あと、皮を外側に配置することで、「皮ぶよぶよ問題」が発生することなく、カリッとおいしく食べられます。
(鶏肉を見ながら)この肉、皮、付いてますかね?
いますいます、そいつですね。皮は引っ張ると結構伸びるんですよ。でも、全部包み切れなくても大丈夫です。皮が多い所があったりなかったりしても、それはそれでいいんです。包み終わったら、丸い状態のまま、皮を下にして油に落としていきます。
こんな感じですか?
はい。それでまずは160度で3分半、揚げていきます。今、油の泡があまり立っていないと思うんですが、この位で大丈夫です。一気にたくさん入れると、油の温度が下がっちゃうので、小さい鍋なら3個くらい、大きい鍋なら5個くらいずつ、分けて揚げるのがポイントです。
そういえば僕、このくらいの量の油を用意することがなくなりました。でも、たっぷりの油で揚げ物をすると、味が全然違うんですよね。
やってみると楽しいですよね。でも、フライパンで揚げ焼きできるのなら、それでもいいと思います。少ない油でできる分、ハードルが低くなるから。
100皿に等しく魂を込めることの難しさ
そんなに揚げ色がついていないうちに、油から出すのもポイントです。というのも、油から上げたあと、余熱で火を入れていくんですね。こうすることで中心部を85度くらいで温めることができるんです。
「揚げ物の黄金温度は180度」という説がありますが、この唐揚げの場合、はじめから180度で揚げると、内側に火が入りきらないうちに、外側に火が入りすぎてしまうんです。なのでまずは160度で揚げて、余熱で内側にしっかり火を入れて。そのあと180度で揚げて、外側にメイラード反応(※)を出すっていう、二段構えにしています。
※メイラード反応とは:食材の中に含まれるアミノ酸や糖が、加熱によって結びつくことで起こる反応。色が茶色を帯び、香ばしい風味が生まれる。
(油から唐揚げを取り出しながら)しょうゆを使っていないから、全然色が茶色くないですね。白い!
油から上げた唐揚げは、最低3分半、休ませておく必要があります。それ以上置いておいても大丈夫です。ちなみに自分の店で出すものに関しては、予めこの状態まで作っておいて、注文が入ったら、二度目の揚げをする……ということがあります。
お店のスタイルが反映されているんですね。
もともと僕、料理好きの素人で、そこからお店を持つようになったんですけど、プロの料理と素人の料理好きの料理の違いって何だろうと思った時に、出来上がった料理の味よりも、いかにお客さんに早く提供できるか、安全に提供できるかだと思ったんです。
僕も昔、少し厨房に入っていたことがあるんですけど、行き着いた先はそれでした。うまいものを作ることは、家でも可能なんです。
むしろ家の方が、制約がない分、おいしくできるのではとも思います。この唐揚げも、3分半余熱いれたあとに即、180度で揚げるほうがおいしく仕上がるんです。でも、お客さんへの提供時間を考えると、作り置きをしておいたほうがスピーディーな提供が可能で、総合的な満足度は高くなる。
家庭で作る場合、1皿に魂を込めればよいところを、お店で作る場合には100皿に同量の魂を込めないといけないんですよね。僕には出来ないことです。尊敬します。
油淋鶏ソースもシンプルな材料で作れる
(置いておいた唐揚げを見ながら)最初のほうに揚げた唐揚げ、ちょっと黄色くなっていると思いませんか?これが火が入った証であり、余熱のパワーです。
今度は180度で揚げていくんですが、油の温度が180度に上がるまでの間に、油淋鶏ソースを作っちゃいましょう。
おっ!
めちゃめちゃ簡単です。まず、ねぎと生姜をみじん切りにします。それと、砂糖3、酢3、しょうゆ2、ごま油1の割合で調味料を合わせて混ぜるだけ。味を決めるのは酢と砂糖。しょうゆを入れることで、香りと塩味を足しています。
酢の代わりにレモン汁を使ってもおいしいです。ごま油を先に入れると、砂糖が溶けにくくなるので、後から入れるのがおすすめです。
ねぎとしょうがは、普通のみじん切りで大丈夫ですか?
はい。僕もリュウジさんと同じで、ねぎは縦に切れ目をいれて、ざくざくと切りますね。
これも中華の手法ですね。僕も結構中華の手法を使っているんですよ。土地柄、中国は新鮮な食材が手に入りにくいから、食材を力技でおいしくしようとするところがあって。それが、高級食材を使わない僕のスタイルと合っているんです。
薬味を切ったら、好きなだけ入れちゃってください。
結構量が多いけど、全部入れちゃいます?
そうですね。僕は、薬味だれみたいにしちゃうのが好きです。
好みで、にんにくを入れても良さそうですね。
いいと思います!スパイスや豆板醤を入れてもおいしいと思います。
何気なくやっていることがプロならではの技
さて、油が180度になったので2度目の揚げをしましょう。今度の揚げ時間は30秒で大丈夫です。外側に焼き色をつけるだけなので。1回目と同様に「もうちょっと揚げ色がつけられそう」と感じる辺りで上げちゃうのがポイントです。
上げるとき、網を使う派とキッチンペーパー派がいるじゃないですか。それについてはどう思いますか?
僕は網派です。キッチンペーパーだと、下の方が空気に触れにくいから、蒸れてしまうので。コンロの魚焼きグリルのところを開けると、そこで油をきることができます。
それはいいですね!(揚げ終わった唐揚げを見ながら)おお、この最後30秒の揚げでざっくざくになってる。全然違う。揚げる前のやつを触ると、ちょっと柔らかいんですよね。
そうなんですよ。……こちらで完成でございます!
これはうまそうだね!唐揚げ専門店の唐揚げという感じがする。
(レモンを切り始めた大西さん)付け添えのレモンは僕が切っちゃいますね。
???……大西さん、レモンの切り方が独特ですね。
地味にプロの技かもしれません。こう切ると絞りやすいんです。
へええ!すげえ勉強になるわ。これはTwitterでつぶやいた方がいいですよ。大西さんはこういうプロならではのライフハックを発信すると良いと思うんです。
※後日、大西さんのYouTubeチャンネルにてレモンの切り方動画が公開されました。
説明の多さに納得できる味わい
リュウジさんとノンアルコールで乾杯する日が来ようとは。つがせてください!
じゃあ……どもどもども。
まずは油淋鶏ソースなしでこのまま食べてみます。……でっかいな!(頬張る)
わーーー味がめっちゃ入ってる!超やわらかいです。めっちゃうまい!しょうがやにんにく入れなくても、こんなにおいしくなるんですね。
ありがとうございます。
レモンを絞ろう……あっ、絞りやすいですね!
(さらに頬張る)味付けが完璧ですね。塩唐揚げのような味わい。卵が入っている感じが不思議とまったくしない。
卵、表には出てきていないんですよね。でも、噛んだ瞬間の肉汁はじける感じは、卵を入れたことで表現されているんですね。吸われた卵が生きているんです。
だからぷりぷりなんですね!これは最高ですね。僕の唐揚げとまったく違うところがいい。油淋鶏ソースもかけてみましょうか。もうほとんど、ねぎ。
(再び頬張る)……うまい!さっぱりしていますね。結構お肉に味がついているから、このくらいの味の濃さが良い気がします。これはね、ソースを作っておいたほうがいいですね。ボリュームが多いから、途中で味変できるといいと思うんです。まいったわ!これは完璧な唐揚げ。
ありがとうございます!
アレンジがしやすいのも良いですね。今回作ったのは油淋鶏ソースでしたが、他にもいろんなソースが合うじゃないかなと。例えば、コチュジャンベースのタレを作ってもおいしそうです。
色々なタレと合わせて楽しみを広げるのっていいですね。僕の唐揚げだと、味が出来上がってしまっているんで、タレで楽しむのは難しいかもしれない。
その分リュウジさんのレシピは、一皿の味がしっかり確立されていますよね。
実際に教えてもらって、食べてみて、このおいしさを伝えるため、再現するためには、これだけの量の説明が必要なんだなと納得しました。
説明がたくさんあって、工程も細かいかもしれませんが、難しいことはしていないんです。シンプルな作業を積み重ねている。僕の料理はハードルゼロではないけど、超えられないハードルではないはずなんです。だから、それを伝えていきたいという思いはあります。
やったら、確実においしくなる。なぜおいしくなるのかがわかると、ハードルを飛んでみたくなるといいますか。
一方で、ハードルを下げるのも、すごく大事だと思っています。感銘を受けたリュウジさんの言葉に「やむをえず料理をしている人たちにも、おいしいものを食べてもらいたい」というのがありまして。
だから最近は、ハードルを下げるためのレシピも作っています。今は電子レンジ調理にはまっていまして。最初は、手抜きをしているみたいで少し敬遠していたんですけど、やってみたら、電子レンジだからこそおいしくできる料理があるんだとわかって、すごく楽しいんです。制限がある中で、どれだけおいしく作れるかというところに、辿り着きました。
それは、料理を本当に真面目にやっているからこそ、辿り着いたんでしょうね!