稲田俊輔さんのレシピ「スパムで!ポークビンダルー」を作る

リュウジのレシピトレード #9 前編

PEOPLE
2022.05.02

料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、南インド料理店「エリックサウス」創設を始め、さまざまな飲食店のプロデュースを手がける料理人、稲田俊輔さんです。

直接会うのはこの日が初めてですが、稲田さんが執筆した記事(※)のなかで言及していた、「バズるレシピ」に対する見解に、かねてから共感と感銘を覚えていたというリュウジさん。稲田さんが編み出した、本質を抑えながら簡単に作れるインドカレー「ポークビンダルー」を学びます。
※外部サイト参照:「バズるレシピ」のルーツはグッチ裕三!?ネットが生み出す新しい家庭料理の文化 - 稲田俊輔

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スパムで!ポークビンダルー

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材料(2人分)

  • スパム(⾓切り)…1/3⽸分(110g)
  • ガラムマサラ…2g
  • トマトケチャップ…30g
  • ⽶酢…15g
  • スープの素(顆粒)…3g
  • ⽔…80g
  • 基本のマサラ(2⼈分)
  • ⽟ねぎ(粗みじん切り) …120g
  • おろしにんにく …4g
  • おろししょうが …4g
  • 塩 …2g
  • サラダ油 …30g
  • トマト⽔煮⽸ …60g
  • 基本のミックススパイス…8g
    (コリアンダーパウダー5:クミンパウダー1:ターメリックパウダー1:⾚唐⾟⼦パウダー1)

作り⽅

<基本のマサラ>
1. フライパンをはかりにのせ、⽟ねぎからサラダ油までの材料を直接計量する。
2. 強⽕にかけ、ヘラで混ぜながら30秒炒める。
3. 全体がなじみ、ジュージューという⾳がし始めたら弱⽕にし、ふたを閉めて5分放置。
4. ふたをはずして再びはかりにのせて、トマト⽔煮⽸と基本のミックススパイスを計量する。
5. 強⽕にかけ、全体がなじんで表⾯にじわっとオイルが浮いてくるまで30秒炒める。
<ポークビンダルー>
「基本のマサラ」のフライパンにすべての材料を⼊れ、ひと煮⽴ちさせる。(仕上がり⽬安は400g)

おいしく作るために、材料と仕上がりの重さを量る

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リュウジ

これは結構、衝撃的なレシピだと思うんです。

稲田

カレーなのに、煮込み時間がほぼゼロですからね。インドカレーは、味と香りの骨格になる、いわばカレーの素を作っておけば、簡単に、いかようにも応用できるんです。そんなわけで、まずはカレーの素になる「基本のマサラ」を作っていきます。

リュウジ

わかりました!よろしくお願いします。

稲田

工程がシンプルなかわりに一つだけ絶対に押さえて欲しいコツがあります。それは、材料と仕上がりの重さを必ず計量すること。中には、レシピに「〇g」という表記が出てきた瞬間に作るのをやめてしまう人もいるので、良し悪しはあるんですが。

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リュウジ

玉ねぎ一つとっても個体差って結構あって、1玉300gのものもあれば、200gのものもありますもんね。

稲田

レシピの再現性……料理の習熟度に寄らず、多くの人がレシピ通りに再現できるようにと考えると、グラムで管理するのが一番いいんですよね。

さて、 まずは玉ねぎのみじん切りからいきましょうか。はかり(キッチンスケール)の上にフライパンを置いて、120gになるまでみじん切りをのせていきます。みじん切りは適当で大丈夫。整っていなくても、粗くても全然OKです。

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稲田

で、そこににんにくとしょうがものせちゃいます。チューブのもので大丈夫です。

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リュウジ

チューブ!そうなんですね。僕、そこだけは譲れなくて、にんにくとしょうがは全部、生のを使うようにしています。

稲田

レシピを考える上で、どこまで簡略化するか、どこまで代用をOKとするかは悩みどころですよね。僕はチューブをOKにするのに数年かかりました。

リュウジ

葛藤がありますよね。代用できる食材がないかについての質問に関しても、すごく悩んできました。中には、この材料を使わないと、この味にはならないっていうものもあるので。僕、この前Twitterで、材料に書いてあるものを買って欲しいって言ってしまいましたもん。

稲田

見ました!料理界隈では「よくぞ言ってくれた!」って拍手している人も多いと思いますよ。

油の量は玉ねぎの量で決まる

リュウジ

玉ねぎとしょうが、にんにくは全部一緒に火にかけるんですね。

稲田

はい。さらにここに、塩2gとサラダ油30gを加えます。

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リュウジ

サラダ油、結構入るんですね。

稲田

玉ねぎの量で、油の量が決まる感じです。ざっくり言うと、最低でも玉ねぎの量の4分の1は入れたいですね。インドカレーにとっての油は、くっつかないための潤滑油ではなく、スパイスの香りをそこに溶かし込む、香味野菜のような役割があるんです。

この後さらに詳しく説明しますが、カレー作りは、油が浮いてきたら次の工程に進む……ということの繰り返しで進めていきます。だから一定量以上の油がどうしても必要なんですね。なので、少なくとも最初は、カロリーが気になっても、レシピ通りに油を使って欲しいと思っています。油を減らしておいしく作るには、ある程度の技術がいるんです。

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リュウジ

火は強火で大丈夫でしょうか。

稲田

大丈夫です。ジュージューと音がするくらいまでフライパンの温度が上がったら、火を弱めてふたをして、5分放置してください。

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リュウジ

炒め時間が少ない!玉ねぎが透き通るくらいでいいんですね。

稲田

はい!(玉ねぎの様子を見ながら)こんな感じで、表面に油が浮いてきたらもう大丈夫です。お好みでもっと炒めてもいいんですけど、たくさん炒めればいいっていうものでもなくて。カレーの玉ねぎって、飴色になるまで弱火で炒め続けるようなイメージがありますけど、本場のインドではそんな風には作られていないんです。強火で焦がしていくような感じ。

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リュウジ

なるほどです。ちゃんと説明してもらえるのうれしいです。稲田さんのレシピを見ていると、かなりロジカルにされているなと感じます。

稲田

そこは徹底してやっていますね。お店でスタッフに教える時にも、ロジックがはっきりしていないと説得力がないんですよね。

スパイスの粉を100度の熱で叩き起こす

稲田

5分置いたら次の工程です。材料の重さを量る時はフライパンごと量ります。はかりが溶けないように鍋敷きを敷いて、その上にフライパンを置いて。トマト缶を60g入れちゃってください。インドカレーの基本のスパイスも入れていきましょう。あらかじめまとめておいてもいいんですが、今日は量りながら入れていきましょうか。コリアンダーが5gで、その他は全部1gです。

リュウジ

コリアンダーが一番多いんですね!

稲田

さらにシンプルにするなら、全部のスパイスを同量で入れるという手もあります。ただ、今回のように短時間で作るカレーに関しては、コリアンダーパウダーを入れると自然にとろみがつくというメリットがあります。

コリアンダーはそんなに風味が強くないので、入れすぎても、逆に多少少なくても、そこまで味に影響はありません。ターメリックやクミンも、多少誤差があっても大丈夫。カイエンペッパー(赤唐辛子パウダー)だけは、入れすぎると辛くなってしまうので、慎重に量ってもらえればと思います。

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リュウジ

ターメリックは色付けですか?

稲田

ですね。それと、どっしりとした、インドカレーらしい「大地の香り」を出すために。

リュウジ

クミンはシード(粉になる前の状態)じゃなくていいんですね。

稲田

いいんです。インドカレー作りを極めた先の最終形態として、ホール状のスパイスをミルサーを使って粉にする……というのもあるにはあるんですが、まずはパウダーで作ってみて、もっとこだわりたいという人だけ、こだわっていったら良いという感じです。

リュウジ

はい!

稲田

そうしたら、再びフライパンをコンロに戻して、炒めていきます。火加減はやりやすい感じで。強火でも大丈夫なんですが、あんまり火が強すぎると、油が浮いてくる前に焦げてしまう可能性があるので、そうならない程度に。

リュウジ

すごくいい香りがしますね!

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稲田

しばらく炒めていくと、表面がつやつやになる感じで、油がじゅわっと浮き上がってきます。さっきほど、あからさまには浮いてこないんですが。

全体が混ざったら、少し押し広げるようにしたあと、焦げない程度に混ぜるのを我慢していると、表面がきらっとするんです。あ、今です!油がじゅわーっとしてきました。

リュウジ

滲み出ていますね。

稲田

これが、100度以上の温度によってスパイスがオイルに溶け込むという現象が起きたサインなんです。パウダーのスパイスって、半分冬眠しているような状態なんで、熱で叩き起こさないといけないんですよ。

リュウジ

へええ……!勉強になります。

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稲田

これで「基本のマサラ」が完成しました。もうカレーの味がします。塩加減もちょうどいい感じで、これをつまみながら飲むとうまい!

リュウジ

うまそうです!ちなみに基本のマサラは保存もできるんですか?

稲田

はい!冷凍保存もできるので、これさえ作っておけば、5分でカレーが作れます。ココナッツミルクや鶏肉を混ぜて煮込んでもいいし、マトンを入れて長時間煮込んだりしてもいい。ひき肉を入れたらキーマカレーになるし、さば缶を汁ごと入れたらそれだけでもカレーになるし。これをベースにして、多種多様なカレーを作ることができます。

ケチャップと本式ビンダルーには共通点がある

稲田

ポークビンダルーというのは本来、豚バラや豚肩肉を、スパイスやにんにく、お酢に一晩漬け込んだあとに1時間くらい煮込んで作る、非常に手間と時間のかかる料理なんですが、それをスパムを使いつつ手軽にやっちゃいましょうというのが今回のレシピです。

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リュウジ

(スパムを缶から取り出そうと悪戦苦闘するリュウジさん)出てきた!切り方はこんな感じでいいですかね。

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稲田

はい!切ったスパムをフライパンに入れたら、他の材料も入れていきましょうか。スパムは厳密に量らなくてもOKですが、他の材料は計量します。まずはエスビーの「ロイヤルマサラ」。名前が違いますが、実質ガラムマサラです。

エスビーの社員さん達でも「お店で見たことがありません」というくらい、あまり市場に出回ってない商品なんですが、僕は、国内のガラムマサラのなかで一番使いやすいのはこれだと思っています。

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ロイヤルマサラは通信販売などで購入可能です

リュウジ

ガラムマサラとロイヤルマサラは、何が違うんですか?

稲田

簡単にいうと、ガラムマサラには唐辛子が入ってて、ロイヤルマサラには入っていません。なので、基本のマサラを作る過程で、辛さを調節したあとにガラムマサラを入れると辛さがさらに変化してしまうんです。香りはいいんですけどね。

リュウジ

ガラムマサラって商品ごとに結構香りが違いますよね。僕はいつもギャバンのを使っています。エスビーのものはそれよりも辛いんですか?

稲田

ギャバンのものは、どっしりとしたクラシックな感じ。エスビーのロイヤルマサラはシャープな、現代的な香りがするんですよ。シュッとしているんです。……オタク語りなんですけど。

リュウジ

そういう話が聞きたいんです!ロイヤルマサラを他のスパイスとは異なるタイミングで入れるのは、香りをたたせるためですか?

稲田

本当は同じタイミングで入れてもいいんですけど、それだと、基本マサラの汎用性がなくなってしまうので、このタイミングで入れている感じです。

で、米酢を15g入れます。

スタッフ

米酢なんですね。

稲田

僕、基本的に穀物酢は使わないんです。理由は単純で、米酢の方が圧倒的においしいから。それと本場では、ワインビネガーや椰子のお酢を使って作ることが多いんですが、どちらもすごく酸味が尖っているんですね。長時間煮ると、酸味が穏やかになりはするんですが、このレシピは短時間で作るので、元々酸味がまろやかな米酢を使うのが良いんです。

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稲田

あと、トマトケチャップも入れます。

リュウジ

ここでトマトケチャップを入れるのは驚きです。

稲田

どうしてかというと、本式で作ったときの出来上がりが、高級トマトケチャップのようなフレーバーなんです。甘酸っぱい仕上がりになるんですね。トマトケチャップだけだと酸味が少ないので、酢を足していますが、割と近い感じです。

それともう一つ、本式のポークビンダルーの重要な要素の中に、クローブとシナモンがあるんですが、実はトマトケチャップに入っているスパイスってほぼクローブとシナモンなんですよ。

リュウジ

すごい!そこまで計算して作っているとは……!

稲田

本式のポークビンダルーを一生懸命作って食べてみたら、あれ、この味ってケチャップじゃん!って感じたという、微妙な達成感と脱力感がベースになっています(笑)。

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入れるものすべてに意味がある

稲田

あとは顆粒スープを3gとお水を入れて、全体がぐつぐつするまで混ぜながら、溶かしこんでいってください。ふたはしなくてOKです。

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稲田

冒頭で「グラムで管理する」とお伝えしていましたが、このレシピの場合、仕上がりの目安を400gにしています。重さを量れば、仕上がりのタイミングがわかるんです。ちなみに僕、家にあるすべての鍋の重さを記録してあります。

リュウジ

たしかにそうすれば味がぶれませんね!

稲田

そうなんです。味がぶれるということは、煮詰めすぎているか、水分が多いかのいずれかであることが多いので。(カレーの様子を見ながら)あ、ほろほろにしたかったらもう少し煮詰めてもおいしいんですが、これで火を止めちゃって大丈夫です。

リュウジ

え!もういいんですか!めっちゃ早い!こういう料理、すごい好きだなぁ。難しくないのに、本格的な感じで作れてすごくおもしろい。

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稲田

スパムの熟成感って、塩豚のような感じがあるんですよね。国産のハムやソーセージ、ベーコンは味が濃いことが多いので、主役にするとキャラが強すぎてしまって。でもスパムは絶妙にナチュラルさがありつつ、熟成感もあるからちょうどいいんです。

リュウジ

へえええ、すごいなぁ。全部意味があるんですね。

稲田

こういうネタのような料理こそ、しっかり理論武装をして、ただの思いつきじゃないことをはっきりさせておかないと、説得力が生まれないと思っているんです。リュウジさんもそうだと思うんですけど……

リュウジ

……わかります!

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塩と酸味のバランスが絶妙だから食べやすい

リュウジ稲田

乾杯!

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リュウジ

僕、ポークビンダルーを食べること自体が初めてです。香りがいいですね。いただきます。

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リュウジ

おーー!めちゃくちゃうまい!今まで僕が食べてきたカレーと全然違いますね。酸味と甘さの両方がある。僕、酸味がそこまで得意ではないんですが、これはすごくおいしい。お酢とケチャップの使い方に感銘を受けています。

稲田

ケチャップだけで味を決めることもできなくはないけど、ちょっとね、なんかこう、ぼやっとするんですよね。酒が飲めない(笑)。

リュウジ

一見材料だけをみると、簡単に振り切ってるようにも見えるんだけど、全然そんな味じゃない。すごく深みがあるし、計算しつくされている。もう、ごはんなしでこれだけでつまみにできる!

稲田

普段はそうしてます(笑)。

リュウジ

ですよね。あと、レーズンとかを入れてもおいしそうです。

稲田

いいですね。バゲットやカンパーニュを合わせてもいいし、それこそレーズンが入ったハード系のパンも合うと思います。

リュウジ

すごいです。僕の発想では絶対生まれないレシピ。深さを理解するために、もう一回このレシピを見返して、「なるほど」って思いたい。煮込まずに短時間でこの味が出せるなんて。

あと、塩味の具合がかなり僕の好きな感じです。結構パンチが強いですよね。塩がきいているので酸味がそこまで気にならないというか、バランスがいいんですよ。

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稲田

酸味は、塩をきかせないと浮いちゃうんですよね。お寿司とかと同じかもしれません。寿司酢も、塩少なめで作ると、途端にすっぱいだけになっちゃいますよね。

リュウジ

たしかに。塩味と酸味のバランスがお寿司に近いかもしれません。

稲田

そういえば、日本だけじゃなく、例えばフランス人が作るフレンチドレッシングも、かなりがっつり塩をきかせていますね。もしかすると、塩と酢のバランスって普遍性みたいなものがあるのかもしれません。

インドは酸味を使うのがうまい文化圏

稲田

ちなみに本来インド料理は、酸味を使うのがすごく上手なんですよ。

リュウジ

え!そのイメージはなかったです。現地には酸味がたったカレーが結構あるんですか?

稲田

彼ら、日本でお店をやるときには封印してしまっているんですけど、酸味の魔術師なんですよ。ポークビンダルーはお酢を使っていますが、お酢を使う地域はそんなには多くなくて。インドの南の方にいくと、タマリンドとか……

リュウジ

タマリンド!

稲田

全国的にはレモンですね。日本のすだちのような感じで使われています。あとはヨーグルト。インドのヨーグルトは日本のヨーグルトよりも基本的にすっぱい。

リュウジ

インド料理、酸味から入るとすごくおもしろいかもしれないですね。

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稲田

だいぶ変化球ですけどね。

リュウジ

いやいやいや、僕はこの変化球がいいなと思いました。インド料理の本当にさわりしか知らなかったんだなと実感できたし、非常に勉強になりました。食べたことのない味を食べるとテンション上がるんですよ。このアプローチでくるのか!という変化球を浴びて、好奇心を掻き立てられると、めっちゃ興奮するんですよね。

稲田

わかります!僕がインド料理にハマったきっかけが、まさにそれです。和食、フレンチと色々やってきて、世の中のおいしいものをおおよそわかったような気持ちになっていた時に、南インド料理と出会ってしまって。あまりにもわけがわからなくて、最初はおいしいかどうかすらわからなかったんです。

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リュウジ

でもこのポークビンダルーは、かなり万人受けの方にふって、味付けされているのかなという感じもしました。日本人の味覚に合わせて作られていると言いますか……。

稲田

でも骨格の部分は本場のポークビンダルーの味ですよ。

リュウジ

そうなんですね。……僕も、もっと勉強しなくちゃ!

後編はこちら

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取材・文:ネッシーあやこ
撮影:猪原悠