「ネギ塩牛タン風しいたけ」を樋口直哉さんが作る

リュウジのレシピトレード #11 後編

FOOD
2022.09.21

料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理をしながら語り合う本連載。今回のゲストは、料理人であり作家としても活躍する樋口直哉さんです。

樋口さんが選んだリュウジさんのレシピは、「ネギ塩牛タン風しいたけ」。「このレシピを見て天才だと思った」と絶賛する樋口さんと、「昔のレシピすぎて忘れちゃってる」と言うリュウジさん。はたして、リュウジさんは過去の自分のレシピに何を思うのでしょうか?

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ネギ塩牛タン風しいたけ

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材料(作りやすい量)

  • しいたけ…1パック(6個)
  • ⻑ネギ…1/2本
  • サラダ油…⼩さじ2
  • 下味⽤
  • 塩…適量
  • こしょう…適量
  • ネギ塩ダレ
  • 味の素…10振り(※今回は6振り)
  • 塩…⼩さじ1/2
  • ごま油…⼤さじ2
  • ⿊こしょう…適量
  • カットレモン

作り方

1. しいたけの軸の部分を切り落とす。
2. ⻑ネギはみじん切りにする。
3. ボウルに⻑ネギを入れ、ごま油、塩、味の素、黒こしょうを加え混ぜる。
4. フライパンを火にかけ、サラダ油をひいて全体になじませる。しいたけを入れて塩をふり、ふたをして中火で蒸し焼きにする。
5. しいたけの水が上がってきたら、ネギ塩ダレをしいたけにのせ、ふたをして 1〜2 分蒸し焼きにする。
6. お皿に盛ってレモンを添えたら完成。

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肉を使わずに肉の満足感を出す

リュウジ

樋口さんはなぜこのレシピを選んだんですか?「至高シリーズ」とかに比べたら地味だと思うんですけど…。

樋口

僕現代に求められる要素って、「いかに肉を使わずして、肉の満足感を出すか」だと思うんです。それを満たしているのがこのレシピなんですよ。
あと、タイトルがいいですよね。「牛タン」って言い切っちゃってるところが。

リュウジ

コメント欄で「ぜんぜん牛タンじゃねぇよ」って言われました(笑)。

樋口

いいんですよ。言い切ることが大事!

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リュウジ

正直、このレシピけっこう忘れてるんですよね。かなり昔のレシピだから。
最近は、ここまで簡略化したレシピはあまりやってないんです。YouTubeはあまりにも簡単すぎると評判がよくないから。

樋口

なるほど。YouTubeとTwitterではウケるレシピって違います?

リュウジ

違いますね。Twitterは本当に簡略化したレシピがウケます。あと、目を惹くもの。一方で「至高シリーズ」とかは材料が多いし手間もかかるから、YouTubeではウケるけどTwitterではウケない。

樋口

へぇ。見ている層は違うんですか?

リュウジ

違います。YouTubeは最近なぜか年齢層が爆上がりしていて、僕の視聴者さんの5%が65歳以上なんです。

樋口

そうなんだ。

リュウジ

意外ですよね。
でも、僕のレシピを入口として、他の料理研究家さんのレシピも試してみてほしいんですよね。樋口さんの記事とか本当におもしろいから。

樋口

いやぁ、僕のは一般向きじゃないから(笑)。

リュウジ

たしかに、樋口さんの記事はよっぽどの料理オタクじゃないと読めない(笑)。でもね、あの理論がわかってくると楽しくてしょうがないんですよ。僕は理屈から解釈していくタイプだから、樋口さんみたいに文章化してくれる人はありがたいんです。

しいたけはうま味より香り

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しいたけの軸を取る

樋口

これは立派なしいたけですね。

リュウジ

このレシピはたぶん、小ぶりで薄いしいたけのほうが合うと思う。しいたけって大きさによって味が変わるから。

樋口

でも、しいたけの味ってうま味はあまり関係ないんだよね。うま味が多いしいたけと少ないしいたけを食べ比べても、味の差はあまり感じない。そもそもおいしさってうま味よりも香りの影響が強いから。

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長ネギをみじん切りにする

リュウジ

さすが手つきが鮮やかですね。ずっと見ていられる。

味の素10振りは「さすがにやりすぎ」

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ボウルに⻑ネギを入れ、ごま油、塩、味の素、黒こしょうを加えて混ぜる

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樋口

味の素10振りって多いと思う。4〜6振りくらいでいいんじゃないかな。

リュウジ

僕もそう思います。これ、昔のレシピなんで…。味の素10振りってかなりイキってますよね、昔の僕。

樋口

(笑)。

イノシン酸がほしいから、味の素じゃなくてガラスープでもいいかも。味の素はグルタミン酸だからね。あ、ハイミーでもいいかもしれないな。

スタッフ

ハイミーってなんですか?

樋口

ハイミーはイノシン酸とグルタミン酸が入った調味料。味の素はやや尖った味がするけど、ハイミーのほうがまろやかなんです。

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最後に添える予定のレモンを切りはじめる樋口さん

樋口

ちょっと酸味がほしいんですが、ネギ塩ダレにレモン絞っちゃっていい?レシピには書いてないんだけど 。

リュウジ

入れちゃってください!

樋口

(レモンを絞り味見をして)うん、ちょっと酸味を入れるだけですごくおいしい。

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リュウジ

(味見をして)ほんとだ!めちゃくちゃうまい。

蒸し焼きにしたしいたけはジューシー

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フライパンを火にかけ、サラダ油をひいて全体になじませてしいたけを入れる

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しいたけに塩を振る

リュウジ

ネギ塩ダレの味が強いんで、下味は軽くで大丈夫です。

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ふたをして中火で蒸し焼きにする

リュウジ

しいたけから水分が出て縮んできた。ちょうどいい大きさになったな。

樋口

しいたけって汁が出るからジューシーですよね。「多汁感」って言うんですけど、その食感を肉に見立てるのがこのレシピのいいところだなと思って。

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リュウジ

樋口さん、すごくじっくり焼きますね。

樋口

僕、弱火が好きなんだよね、基本的に。安全運転。

リュウジ

僕はなんでも強火でいっちゃうからな~。

ネギに火を通すのがポイント

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ネギ塩ダレをしいたけにのせる

樋口

このレシピ、ネギに火を通してるところも好きで。普通はネギ塩ダレを最後にのせて仕上げると思うんですよ。

リュウジ

初期のレシピではそうだったんですけど、YouTube動画にするとき、ちょっと火を通すようにしたんです。長ネギの辛さが苦手な人って、生だと食べられないらしいんですよ。いろんな人に試食してもらって、ネギの辛味を抑えるために火を通すことにしました。

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樋口

これ、少しだけにんにく入れたくなるなぁ。ネギも1/4くらい炒めたくなる。そうするとより肉っぽさが出るんじゃないかな。

リュウジ

香りが出ますもんね。でも、レシピに焦がしネギを入れたら、みんな作らなくなるから(笑)。僕としては、おいしくなるんだったらやりたいですけどね。

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ふたをして 1〜2 分蒸し焼きにし、お皿に盛る

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レモンを添えたら完成!

スタッフ

焼き色が綺麗!

リュウジ

焼き加減が最高!これは絶対うまい。

昔のレシピは今より尖ってる

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リュウジ樋口

乾杯!

リュウジ

久々に食べるわ、これ。昔の自分を思い出す。

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リュウジ

うまい!「本当にうまい居酒屋の人気メニュー」って感じ。これは酒だね。

樋口

酒飲みにはいいね。

リュウジ

昔のレシピだから、塩分がちょっと多いんですよね。

樋口

何品か食べるとき、こういう味の料理が一皿あると嬉しいよね。

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リュウジ

あらためてこのレシピ見て思ったけど、僕の昔のレシピってごま油が多すぎなんですよね。

樋口

でも、この料理にはごま油が必要だよ。

リュウジ

必要なんですけど、もうちょっと少なくてもいいかな。歳をとって油がキツくなってきたから。昔はバンバン油を使ってたけど、今は昔の2/3くらい。僕の体調や嗜好の変化でレシピも変わってくるので、今は昔より優しい味です。この頃は尖ってた(笑)。

世界はうま味を求めてる

リュウジ

やっぱり味の素が多かったかな。

樋口

リュウジさんは、若い人にしてはめずらしく味の素をよく使いますよね。味の素って昭和初期くらいのレシピには必ず入ってるから、リュウジさんは先祖返り。

リュウジ

味の素って、本当の使い方をわかってる人が少ないと思う。甘味がほしいときに砂糖、塩味がほしいときに塩を入れるのと同じで、うま味がほしいときに味の素を入れるのが本来の使い方なんですけどね。うちのじいちゃんは納豆に入れてた。

樋口

昔は漬物に味の素をかけたりね。昔の食べ物は塩分が強かったから、塩分を弱めるために味の素をかけてたんですよね。だけど、今の漬物はそもそもが塩分控えめだから、味の素がいらない。

リュウジ

それを知ってる方、あまりいないと思います。

樋口

昨今、町中華が人気だけど、あれも味の素をよく使ってますよね。レトロ感がウケてるんだと思う。若い子が町中華を食べて「懐かしい」とか言うでしょう、絶対に子どもの頃食べていないのに(笑)。あれがすごいなと思って。

リュウジ

市販の惣菜って町中華系の味がするやつありますよね。あと、冷凍食品とか。

樋口

たしかに冷凍食品は町中華っぽい。味の素の「ザ・チャーハン」は完全に町中華。

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リュウジ

僕はたまに「味の素を使うなんて舌おかしいんじゃない?」って言われるんですよ。でも、味覚の感受性って個人差があって、酸味に弱い人や苦味に弱い人がいるように、うま味に弱い人もいる。それをもっと知ってほしいと思いますね。

樋口

うま味ってたんぱく質のサインなんですよね。人間はアミノ酸の味で「この料理を食べたらたんぱく質を摂取できるぞ」と体がわかるようになっている。だから昔の日本料理は大根にアミノ酸の味を含ませて、肉があるかのように脳をだましてたわけ。でも今は肉も魚もあるから、うま味がそんなに必要じゃなくなった。

リュウジ

なるほど。

樋口

一方で、今は世界中の人たちがうま味に着目してるんですよ。なぜかと言うと、世界の料理は油脂を減らす方向にあるので。じゃあどうやってインパクトを出すかというと、うま味と香りなんです。

今まで、日本以外の国は油でおいしさを作ってきたんですね。イタリア料理はその典型で、にんにくとオリーブオイルを炒めて香りを出すでしょう。それが「油を減らそう」って風潮になったら、代わりにうま味が求められるようになった。

リュウジ

なるほど。僕はそこまで世界の料理事情を把握してなかったです。

樋口

最近、僕が注目してるのはベトナム料理。ベトナム料理って油をあまり使わないのに、強い香りが醍醐味なんですね。香りって油に溶けるから、油がないとどうしても香りの持続性が短くなって、それを長くするには総量を増やす必要がある。そうするとベトナム料理みたいに、生の香草をどっさりのせる方向性になるんですよ。

リュウジ

もう、樋口さんに世界中の料理を解説してほしい。

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料理の未来

樋口

リュウジさんは、今のスタイルで何年くらいやっているんですか?

リュウジ

動画を始めてだいたい3年ですね。

樋口

なるほど。そろそろ自分に飽きてきませんか?ウケる・ウケないじゃなくて、続けていると、自分が自分に飽きてくると思うんですよ。

リュウジ

まぁ、飽きてはいますね。

樋口

料理は飽きないことが大事ですよ。そのために何をするか。

リュウジ

ウケない料理もやりたいなっていうのはあります。だけど、まぁバズらない(笑)。たまに切り干し大根のレシピとか出すんですけど、過去最低の再生数でした。パックごはんに豆腐と鮭フレークのせて醤油かけただけのレシピのほうがぜんぜんウケる。がんばったレシピが見られないと、ちょっとへこむんですよね。

樋口

切り干し大根は食材としておもしろいですよね。あれも硫黄化合物だから、肉の味を強くするんです。お肉と切り干し大根を一緒に煮ると、肉の味が強くなる。ハンバーグに切り干し大根を刻んで入れるのもおいしいし。多汁感があるからいい仕事をするんですよ。

リュウジ

そこまで切り干し大根を掘り下げたことなかったわ(笑)。

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リュウジ

僕は料理を広めたいから、その入口になるために、料理をしない人の興味を惹きたいという気持ちがあって。でも、興味を惹くためだけにいろいろやりすぎちゃうと、自分の料理研究家の部分が「ちょっと待って!それでいいの!?」って言うんですよね。

樋口

バランスが大事ですよね。僕も料理に興味を持ってほしいなと思って活動してるから、そこはリュウジさんと同じだと思う。

リュウジ

でも、樋口さんのやり方は正統派じゃないですか。記事を書いて、それを見た人が料理にハマっていく。

僕のやり方はやっぱり邪道なんですよ。YouTubeのコラボとか、料理以外のところから攻めたりするから。それでも、料理を広めたい、僕のレシピを入口に他の料理研究家さんのレシピも作ってもらいたい、って気持ちは本当です。

樋口

僕の体感ですが、今、料理好きは増えていると思いますよ。「料理はおしまいだ」みたいに言う人もいるけど、それはポジショントークだと思っています。何が入口かはわかりませんが、料理に興味を持つ人は確実に増えてるし、これからも増えていくと思います。

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<撮影こぼれ話>

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すっかり意気投合したリュウジさんと樋口さん。帰り際には、連絡先を交換していました。

前編はこちら

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取材・文:吉玉サキ
撮影:村上未知
アイスム座談会