「一文字ぐるぐる」「サバストロガノフ」を印度カリー子さんが作る

リュウジのレシピトレード #3 後編

FOOD
2020.11.24

料理研究家リュウジさんとゲストがお互いのレシピをトレードし、料理しながら語り合う本連載。今回のゲストはスパイス料理研究家の印度カリー子さん。印度カリー子さんが選んだリュウジさんのレシピは「一文字ぐるぐる」と「サバストロガノフ」。

「ふだん使わない食材&調理法だから作ってみたい」「味が想像できないから体験してみたい」という好奇心からのセレクトです。時にスパイスでアレンジを加えつつ、料理を楽しんでいたカリー子さん。終盤では、バニラアイスに合うスパイスを教えてくれました。

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一文字ぐるぐる


材料(1人前)

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  • 小ネギ…1束
  • 味噌…小さじ4
  • 酢…小さじ2
  • 砂糖…小さじ2

作り方

1. 小ネギは1分弱茹で、水で冷やしたあとに水気を絞る。
2. 茹でた小ネギの根元を切って、2〜3本ほど手に取り、ぐるぐる巻きにする。味噌、酢、砂糖を混ぜた酢味噌を添えて完成。

サバストロガノフ


材料(4人前)

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  • 玉ねぎ…1個
  • 舞茸…1パック(100g)
  • サバ味噌煮缶…1缶(190g)
  • 水…300cc
  • ルウ…半分(80g)
  • バター…20g
  • 塩こしょう…少々

作り方

1. 玉ねぎをバターと塩こしょうで飴色に炒め、舞茸とサバ味噌缶を汁ごと入れてほぐし、さらに炒める。
2. 水を入れ、沸いたらルウを入れ、溶けたら完成。

1本だけ生えてくるニラ

リュウジ

「一文字ぐるぐる」は熊本の郷土料理で、僕がよく行く九州料理の居酒屋さんのメニューにもあって。酒の肴に最高なんですよ。本来はわけぎで作るものなんですけど、わけぎ、東日本ではあまり売ってないんですよね。なので小ネギで代用しています。

カリー子

私、小ネギを買ったことがないんですよ。

リュウジ

えっ!

カリー子

小ネギを使う文化がわが家にはなくて。

リュウジ

小ネギは輪ゴムをつけて茹でるとばらけません。

カリー子

輪ゴム、溶けませんか?

リュウジ

大丈夫です。小ネギを輪ゴムでゆわえたら、茎のほうからゆーっくり入れて、全体がお湯に浸るようにします。……50秒くらいかな、サッと茹でたら冷水で冷やします。

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カリー子

い〜い香りがしてきました!ニラで作ってもおいしそうですね。

リュウジ

ですね!ニラでもOKです。

カリー子

ニラといえば。わが家の玄関先のコンクリートの間から、1本だけニラが生えているんですよ。植えてないのに…。増えることもなく1本だけ。切って食べると、1か月後にまた伸びてくるんです。

リュウジ

たくましいね〜〜!

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ずっと食べることを考えている

リュウジ

次に小ネギ巻いていきます。小ネギを2〜3本取ったら、まず最初に折り曲げて、折り曲げたところに巻きつけていく感じです。ちなみに、わけぎだったら小ネギよりも大ぶりなので1本で大丈夫です。(カリー子さんが巻いている様子を見ながら)いいですね!

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カリー子

(巻いている小ネギの)巻きおわりの部分はどうすればよいでしょう?

リュウジ

巻きおわりはね……適当に帳尻を合わせる感じで大丈夫です。

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カリー子

わーーおいしそう!

リュウジ

すごく楽しそうに料理しますね。

カリー子

ほんとですか?たぶん人生でいちばん楽しいのが料理をしているときかもしれません。ふだんはあまり会話しないし……

リュウジ

誰ともしゃべらないんですか。

カリー子

友達は少なくて…。休日はずーっと家にいてひとりで淡々と料理をしています。お家が好きすぎて。飲みに行くのも、ひとりやふたりで飲むのは平気なんですけど、3人とかだと……

リュウジ

そうなの?

カリー子

料理がなかったら生きていけないですね。料理していないと、心がどんどんどんどん病んでいっちゃうんですよ。どんなに忙しくても料理をする時間をもたないと。ずーっと食べることを考えているんです。何食べようかなって。なんかもう、寝てるときも考えていて。

リュウジ

本当に好きなんだね。でも、僕もそうかもしれない。毎日新しいレシピを作ってる。

カリー子

外で食べるんじゃなくて、自分で作るのが好きなんです。自分で考えて、手を動かして。その先にあるおいしさこそが幸せ、みたいな。食べ歩きにはあまり興味がないんですよ。だから「おいしいカレー屋さん教えてください!」と聞かれても、知りません……っていう。

リュウジ

それは僕とはちょっと違う感覚だ。僕は食べ歩きも好き。

カリー子

私の場合、外で食べるのであれば、外国に行きたいなと思っちゃうんです。旅は大好きだから。今の状況が落ち着いたら食旅にでようと思っています。

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酢味噌にスパイスを加えてみる

続いては一文字ぐるぐるに添える酢味噌を作ります。

リュウジ

(レシピを確認しながら)すげえ!このレシピ、少し昔のだから味の素が入ってないんだ!

カリー子

酢、味噌、砂糖が「2:1:1」の比率なんですね。

リュウジ

今回用意があるのはだし入りの味噌なんですね。だし味噌を使う場合は、もうちょっと酢を入れてもいいかもしれません。調合はカリー子さんにおまかせします。

カリー子

(スパイスを手に取る)

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リュウジ

お!ここでターメリックを入れるんですか?

カリー子

はい。だしの香りが強めなので、消したいなと思って。辛みとして、チリを入れてもおいしそうですね。ブラックペッパーも入れてみましょうか。どんな味になるんだろう……。

 

ちなみにターメリックは、加熱しないとあまり香りがたたないんですけど、加熱したら酢が飛んじゃいますかね。

リュウジ

大丈夫じゃないですかね。飛んじゃったら後で足してもいいし。

カリー子

(スパイスを入れた酢味噌を電子レンジにかける)

リュウジ

へえええ、スパイスってレンジの加熱でも香りがたつんですね!

カリー子

はい。インドには、レンジを活用する料理がほとんどないんですけど、なんでだろう……って思ったら、そもそもインドはレンジの普及率が高くないんです。

リュウジ

おっ、香りがしてきましたね。

カリー子

(味見して)うん。なんだか……変わった!ちょっとだしの風味がわからなくなった感じがします。

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リュウジ

楽しみです。

バターもスパイスも苦手だった

さて。一文字ぐるぐるが出来上がったところでもう一品、ハヤシライスのルウで作る「サバストロガノフ」にも着手していきます。

リュウジ

このレシピ、結構前に考えたものなんですけど、すごく気に入ってるレシピです。

カリー子

私、サバが大好きなんですけど、舞茸と合わせるとどんな感じになるのか全然想像がつかなくて。だから選びました。ハヤシライスのルウを買ったこともないんです。

リュウジ

僕もハヤシライスのルウは料理研究家になってからはじめて買いました。今日はもう、カリー子さんの好きなように作ってください。

カリー子

……玉ねぎこんなでっかいんですけど、1個まるまる入れちゃって良いですか?

リュウジ

良いと思います。玉ねぎ、多ければ多いほどうまいから!

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カリー子

舞茸と玉ねぎ、一緒に炒めちゃって大丈夫ですか?

リュウジ

レシピには、玉ねぎを飴色に炒めてから舞茸を……って書いてあるけど、一緒に炒めちゃって良いよ。カリー子ちゃんバージョンで!

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(しばし炒める)

カリー子

私、玉ねぎはふだんからしっかり炒めがちなんですけど、舞茸をこんなに炒めたのははじめてです。

リュウジ

僕もはじめて!良いにおいだね。

カリー子

ちなみにバターで舞茸を炒めたのもはじめてです。私、実はバターの香りが苦手だったんですけど……

リュウジ

え!そうなの!

カリー子

リュウジさんの本「レンジ飯」のレシピにバターがたくさん出てくるじゃないですか。作っているうちにバターが好きになりました。

リュウジ

僕、バター入れとけばいいと思ってるからね。

カリー子

私、そもそも香りが苦手なんですよ。

リュウジ

え!スパイス好きなのに……?

カリー子

スパイスも、昔はほぼほぼ嫌いだったんです。ターメリック、シナモン、クローブ。8割方のスパイスがダメだったんですけど、カレーにしたら気にならなかったんです。スパイスカレーのそういうミラクル感にも魅了されてます。

 

苦手なものでも、自分で料理して過程をぜんぶ見ることで、好きになっていくのかもしれません。

リュウジ

サバ缶は汁ごと入れちゃってください。このレシピはサバ缶の味に結構左右されます。

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カリー子

私、サバ缶が好きすぎて。絶好調のときは、白飯と一緒に2缶くらい食べちゃいます。

リュウジ

なかなかワイルドだね!

カリー子

サバ、崩しますか?

リュウジ

僕は崩すかな。あと、ここでちょっとまろやかさを加えたいので砂糖を加えてもいいかも。今回使っているルウがトマトベースのもので少し酸味があるので。僕、市販のルウでカレーを作る時も、砂糖を少しだけ入れるんです。甘みとコクを足したくて。

カリー子

(水を投入しルウを入れ、煮詰めながら)……ここまできても、味の想像が全然つかないです。わかんないなぁ。……もうちょっと煮たほうがよいですか?

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リュウジ

もう大丈夫だと思う。

カリー子

あーおいしそう。パンにも合いそう。オムライスにもかけたい!

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ネギの食感を楽しむ料理

ここからは実食の時間です。まずは「一文字ぐるぐる」から……

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カリー子

いただきまーす。んーーーーー!めっちゃおいしい!止まらなくなる。ネギ、みずみずしいですね。

 

ネギって細かく刻んで使うことが多いので、噛み応えがあるネギ料理ってなかなかないと思うんですけど、これは巻くことによって食感が楽しめるんですね。しっかり噛むことで、ネギの水分……ネギ汁がぷっしゃーって出てくる!

 

私のレシピは炒めてばかりで、こういったやり方をまったくしていなくて。だから作ってみたかったんです。

リュウジ

味付けとかじゃなくて調理法で食わせる料理。今の僕にもあまりない発想なので、こういう料理はすごく大事だなって思います。しかもちょいちょいつまめるし、軽い。

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カリー子

おいしい〜〜めっちゃおいしい!

リュウジ

スパイス入りの酢味噌はどんな味なんだろう。食べてみてもいいですか。……うまい!だしのカツオ感が和らいでいる。だし入りはだし入りでうまいんだけど。

スパイスカレーとサバストロガノフは対照的な料理

カリー子

「サバストロガノフ」も食べてみていいですか。

 

いただきまーす!うーんおいしい!あと、想像していたよりも甘い!語彙力を喪失しちゃっているんですけど、めっちゃおいしい。おいしい!!!

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お皿には前編で作った「スパイス3つで作るチキンカレー」と相盛りしました!

リュウジ

僕も食べていいですか。たぶんいつも作っているやつと味が違うはず……………。あっ、甘い!

 

ハウスの「完熟トマトのハヤシライスソース」(今回使ったルウ)は、甘めのトマトソースみたいになるんですね。エスビーの「とろけるハヤシ」で作るとここまで甘さはなくて、少しデミっぽくなるんです。ルウによってかなり味が変わる。発見ですね。

カリー子

舞茸とサバ缶が両方とも強く主張してきて、大戦争を起こしたりしないのかなと思っていたんですけど……全然そんなことなかったです。

 

スパイスカレーはどちらかというと、スパイスの香りを立てて、主役の具材を押し出すことがメインなので、それ以外の要素を抑えながら作るところがあるんですが、サバストロガノフは、バターの風味、舞茸の風味、味噌の風味、全部を合わせて、その調和から深みや香りが生まれくる料理なのかなと。

 

見た目は似ているんだけど、かなり対照的な料理ですね。

追伸:バニラとスパイスは合う

カリー子

……ところで、アイスにスパイスかけてみませんか?(スパイスを削ったり切ったりしはじめるカリー子さん)

リュウジ

使うスパイスは、粉末よりも削ったもののほうがいいの?

カリー子

粉末のほうが手軽なんですけど、香りを存分に楽しむのなら、削ったほうが良い感じです。コーヒーと同じで、削りたては香りますね。あと、アイスにスパイスをかけるときのポイントは、甘いアイスを使うこと。無糖だとおいしくないんです。

リュウジ

なるほど。

カリー子

(スパイスをアイスにかけながら)これは八角なんですけど、バニラアイスによく合うんです。

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リュウジ

(食べてみる)八角めっちゃ合う!好き!

カリー子

八角やシナモンは甘い香り、カルダモンはインド的な風味になります。

リュウジ

わ、すげえカルダモン!一番香りでてるね。少しレモンをかけてもいいかもね。うま!

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カリー子

あと、フェンネルもすごく合います。フェンネルとシナモンの合わせ技は最強なんです。牛肉をはちみつと赤ワインで漬けて、そこにフェンネルとシナモンを入れてもおいしいです。

リュウジ

へええええ!

カリー子

でも私、フェンネルの良さに気がついたのは、使い始めて5年経ってからなんですよ。今年の4月くらいに、フェンネルを沢山使ってみる週間を自分に課して、いろいろ試しているうちにようやくわかってきたんです。

 

だから、難しい。まだまだスパイスについて知らないことだらけです。スパイスの世界は深すぎて。それだけしかできなくなるくらいに深い世界です。

リュウジ

向上心、すごいですね。

カリー子

たぶん永遠に成長しつづけたいタイプなんだと思います。まだまだですよ。

前編はこちら

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取材・文・:ネッシーあやこ
撮影:洲脇理恵(MAXPHOTO)

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